フランス美食外交に潜む深謀遠慮──異色外交官が明かす食と政治の深い関係とは
ニューズウィーク日本版 / 2019年8月21日 18時0分
フォールは美食の力を解説する。
「美食は国家の影響力を表し、経済力、文化力、そして洗練度を象徴する。外国の交渉相手を美食でもてなすと、交渉を常にスムーズに運べるものだ。第1に、オフィスでするよりもずっと容易に、世間話を始められ、より落ち着いた状況、そして対立的でない雰囲気で話すことができる。さらにフランス料理というものは概して美味なので、交渉相手は喜んでフランス側にお越しになる。外交交渉で重要なのは、スポーツ同様『ホームでプレーする』ということ。そうすれば、慣れ親しんだ場所やスタッフ、プロトコル(外交儀礼)で物事を進められ、議論を主導することができる」
最高峰のワインが表すもの
もちろん、重要なのは場所だけではない。美食外交の真髄は細部に宿る。
フォールが外交官として最も印象に残っている美食外交の場面は、今からさかのぼること35年、1984年6月6日の昼食会という。当時のフランソワ・ミッテラン大統領はこの日、第二次世界大戦の転換点となったノルマンディー上陸作戦40周年の記念式典で、ロナルド・レーガン元米大統領らを前に謝意を表した。
「レーガン大統領は上陸作戦の舞台となった海岸を視察後、パリに戻り、ミッテラン大統領主催の昼食会に出席した。その昼食会で用意されたのは、ボルドーワイン。ボルドーといってもただのボルドーではない。シャトー・マルゴー、シャトー・ラフィット・ロートシルトといった、ボルドー最高峰の5大シャトー全てだ。しかも、ノルマンディー上陸作戦が決行された1944年のビンテージワイン。1本2000ユーロ(約25万円)はくだらない、40年ものの極上ワインを、出席者に5、6杯ずつ振る舞った。フランスとしては、偉大なワインを以てアメリカに感謝を表すとともに、フランスが美食の発祥地であるということ、つまりフランス流ライフスタイル『アール・ド・ヴィーヴル(生き方の技法)』を伝える意図もあった」
フォールは続ける。「美食が外交関係を一瞬で変えることはない。しかし、美食はソフトパワーであり、影響力をもたらす。繊細でありながら、印象的な響宴。こうしたことを極めて自然にできるのがフランスなのです」
国際政治の専門家であるグルノーブル政治学院のイヴ・シュメイユ教授はこう指摘する。
「(響宴外交において)美食は外交政策を物語る要素と思われているが、実はそうではない。響宴外交とは、頑強な交渉相手を懐柔し、争いを避けるためにこそある」
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