アジアに、アメリカに頼れない「フィンランド化」の波が来る
ニューズウィーク日本版 / 2019年9月2日 19時0分
中国の新たな海洋帝国の姿が明確になってきたのはこのほんの数年のことだが、インド太平洋海域はもはや、米海軍の「庭」ではない。
今、台湾は再び紛争の火種になりつつある。中国は台湾周辺海域で軍事演習を行い、ミサイルの発射能力と台湾に対するサイバー攻撃能力を磨きつつ、トランプ政権が承認した台湾への22億ドルの武器売却の中止を要求している。習とドナルド・トランプ大統領の自国の利益最優先政策によって米中対立が激化していることからすれば、こうなるのは当然の帰結といえる。
もちろん、朝鮮半島ほどアジアのなかで影響の大きい地域はない。トランプと北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が始めた首脳会談はどこか混乱気味だったが、その予想外の結果として北朝鮮と韓国の間で活発な対話が始まった。
この南北対話はそれ自体の論理と方向性があり、浮き沈みもあるだろうが、いずれは北朝鮮と韓国の平和条約締結、そして最終的には2万3000人を超える在韓米軍の撤退に向かうだろう。そんなことはありえない、とはいえない。南北ベトナム、東西ドイツ、南北イエメンの例からしても、20世紀に分断された国家は統一に向かう傾向がある。これが朝鮮半島で起こった場合、最も割をくうのは日本だ。
日本の安全保障上は、朝鮮半島は分断されている必要がある。第2次大戦の遺恨はもちろん、1910年から45年までの植民地化の歴史ゆえに、統一された朝鮮はおのずと反日国家になると考えられるからだ。
日韓間の貿易、安全保障関係が、第2次大戦中の徴用工問題と慰安婦問題と相まって悪化している最近の状況は、朝鮮半島が統一された暁にいずれ日本との間で噴出するであろう政治的緊張の厳しさをうかがわせる。
トランプはアジア全体へのビジョンを明確にせずに、アジア各国に対して個別にゼロサムゲーム的な二国間主義の交渉を行う政策を選び、アメリカの同盟国同士を敵対させかねないパンドラの箱を開けてしまった。こうなると最後に勝つのは中国だ。
中国は着実に空・海軍力を増強しており、いずれその戦力は東シナ海における衝突で日本をしのぐとみられる一方、北東アジアの駐留米軍の兵力は減少する可能性がある。日本は今、そんな未来に備えなければならない。
中国は現在好機をうかがっている段階で、これまでのところは、非常に有能な日本の海上自衛隊と持続的に対立する危険を冒すことを望んでいない。
こうしたことはすべて、アメリカの外交および安全保障政策の信頼性が、第2次大戦以来最低になった状態で発生している。意思決定の一貫性が崩れ去ったことで、アジアだけでなく世界的に、アメリカの力に対する信頼は損なわれている。
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