アジアに、アメリカに頼れない「フィンランド化」の波が来る
ニューズウィーク日本版 / 2019年9月2日 19時0分
大統領就任初期にTPP(環太平洋経済連携協定)の離脱を決めたトランプは、高性能兵器がアジア全体に拡散しようとしている時に、同盟関係の構築に背を向け、イラン核合意から離脱しINF全廃条約を破棄するなど、軍事力の抑制に必要な国際管理の枠組みを弱体化させた。
アメリカと同盟関係にあるアジアの国々との信頼と暗黙の理解も著しく損なわれた。信頼性は、大国や指導者にとって最も重要なものだ。
インドは中立を選ぶ
アメリカとインドとの新たな同盟およびインド、オーストラリア、日本、ベトナムを結ぶアジア地域の強いつながりも、それほど助けにはならないかもしれない。アメリカとインドの関係は過去15年間、米中の関係が予測可能で、対処可能であるという特定の状況下で劇的に改善された。だが関税をめぐる新たな混乱により、米中関係の予測可能性または対処可能性は、格段に低くなった。
そうなると地理的に中国に近すぎて安心できないインドは、最終的には2つの大国間のバランスをとる非同盟戦略を再発見する必要があるかもしれない。インドにしてみれば、それほど労力を要することではなく、実際には正式に宣言する必要さえない。アジアの新興国のネットワークに関しては、みせかけの要素が大きく、それほど中身はない。しっかりした予測可能なアメリカのリーダーシップがなければ、たいした成果は期待できないかもしれない。
トランプ大統領の出現は、アメリカ社会、文化、経済が長い時間をかけて変化してきた結果だ。超大国であるアメリカの国内状況は最終的に全世界に影響を及ぼすが、中国もそうだ。テクノロジーの助けを借りた習の強権的な国内政策が、今後10年ほどの間に中産階級の反乱を防ぐことができなくなれば、中国が海外で展開している巨大構想の多くが疑問視され、内部から揺らぐこともあるかもしれない。
日本が「フィンランド化」する
しかし、それは現時点では考えにくいシナリオだ。より可能性が高いのは、中国がインド太平洋とユーラシア全域に軍事力と市場を拡大し続ける一方で、アメリカの第2次大戦後の同盟国に対する責任感が減退し続けることだ。アジアにおいてはそれが「フィンランド化」、すなわち民主主義と資本主義を維持しながら旧ソ連に従属したフィンランドと同じように中国に従属していく動きにつながる。
東は日本から南はオーストラリアまで、アジア地域のアメリカの同盟国は、冷戦中のフィンランドが旧ソ連に接近したように、徐々に中国に近づいていく可能性がある。アメリカの同盟国は、西太平洋地域において地理的、人口統計的、経済的に超大国である中国と仲良くする以外に選択肢はなくなるだろう。
そうなれば、「スパイクマンの世界」の終わりが見える。
(翻訳:村井裕美、栗原紀子)
From Foreign Policy Magazine
※9月10日号(9月3日発売)は、「プーチン2020」特集。領土問題で日本をあしらうプーチン。来年に迫った米大統領選にも「アジトプロップ」作戦を仕掛けようとしている。「プーチン永久政権」の次なる標的と世界戦略は? プーチンvs.アメリカの最前線を追う。
ロバート・カプラン(ユーラシア・グループ専務理事)
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