猫はどこからやってきた?「愛すべきネコ君」と人間との共同生活の不思議な歴史に迫る
ニューズウィーク日本版 / 2023年11月13日 19時47分
<農耕生活の始まりがアフリカヤマネコを人間と同居するイエネコにしたが、何より変わったのは身体的特徴よりその行動だった>
何年か前、アフリカで本物のサファリを楽しむ機会があった。暗黒の草原に繰り出してライオンやヒョウ、ハイエナといった猛獣の様子を観察するのは最高にスリリングだ。
ところが、闇をかき分けて進む私たちの車のスポットライトに照らし出されたのは、もっと小型のネコ科の動物だった。細身で、毛は黄褐色、かすかに斑点か縞(しま)みたいなのが入っていた。まぶしそうにこちらを見て、次の瞬間には身を翻し、ダッシュで闇の奥へと消えた。
誰かのペットが迷い込んだのか? 最初はそう思った。でも特徴を探ると、イエネコ(家畜化したネコ)にしては脚が長いし、立派な尻尾の先端が黒い。アフリカヤマネコだ。
筆者は進化生物学者で、専門は爬虫類。特にトカゲ類の自然淘汰を研究してきた。しかしネコとの付き合いはもっと長く、5歳の時からだ(親がどこかで捨てネコをもらってきた)。そしてアフリカヤマネコについて言えば、その進化の驚異には今も魅せられている。
そう、アフリカヤマネコは愛すべきイエネコたちの祖先だ。生物学的な違いは微々たるものだが、それでもアフリカヤマネコの子孫は、イヌと並んで人間に最も愛される動物となった(正確な数は不明だが、愛玩用のイヌとネコの個体数は世界全体でそれぞれ10億と7億ともされている)。
もちろん、アフリカヤマネコの子孫が人間のハートをつかみ、ハウスに入り込むためには一定の的確な進化が必要だった。詳しくは拙著『The Catʼs Meow』をご覧いただきたいが、以下、簡単に説明してみよう。
ネコ科の動物でセレブといえばライオンやトラ、ピューマのような大型の猛獣だが、実を言うとネコ科には41種類の野生種がいて、その大半はイエネコくらいのサイズだ。
クロアシネコやボルネオヤマネコ、コドコド、ジャガーネコ、マーブルキャットなどがいるが、それらの名を知る人はほとんどいない。
人間の集落に入り込み共存
理論上は、どの種にもイエネコの祖先となる資格があった。だが遺伝子DNAの解析によって、現在のイエネコがアフリカヤマネコ(それも北アフリカ原産のリビアヤマネコ)の直系であることが分かっている。
数あるネコ科の小動物の中で、なぜ北アフリカのヤマネコだけが私たちのペットになり得たのか。端的に言えば、彼らの性格が最適で生息地も時期も最適だったからだ。
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