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韓国最高裁が歴史認識問題で「親日判決」を出した深い理由

ニューズウィーク日本版 / 2023年11月21日 17時10分

事実上の無罪を勝ち取った朴裕河(10月26日)AP/AFLO

<『帝国の慰安婦』裁判と、対馬から盗まれた仏像の所有権裁判について韓国最高裁が最近、「親日」的な判決を出した。韓国司法が現政権の親日政策に寄せてきた......訳ではない>

「歴史認識問題」に関わる重要な判決が最近、韓国で2つ出た。

1つは長崎県対馬市の観音寺から盗まれた仏像の所有権に関わる訴訟である。この裁判では、韓国中部にある浮石寺が、仏像は14世紀に倭寇によって奪われたものだと自らの所有権を主張。1審では認められたが、今年2月の2審判決は浮石寺の主張を認めず、その行方が注目されていた。

もう1つは、世宗大学名誉教授の朴裕河が出版した『帝国の慰安婦』の裁判である。問われたのはその記述が元慰安婦らへの名誉棄損に当たるかどうかで、1審が検察の訴えを退けたのに、2審は著者に罰金1000万ウォンの支払いを命じていた。

そして奇しくも同じ2023年10月26日、韓国大法院(最高裁)はこの2つの事件に対する判断を下した。対馬の仏像盗難について大法院は高裁の判決を支持し、観音寺に所有権を認めた。他方、『帝国の慰安婦』をめぐる裁判で、大法院は2審の判決を破棄し、事実上の無罪判決を下した。

この「歴史認識問題」に関わる裁判結果について、日本国内でも様々に論評されている。その1つは、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の成立と、その好意的な対日政策に押されて、韓国の裁判所は判断を変えつつあるのだ、とするものである。背景には、韓国の司法は常に時の政権の意向に沿って判決を下すものだ、という理解がある。

しかし、事態はそれほど単純ではない。なぜなら、尹政権はつい最近、裁判所に煮え湯を飲まされたばかりだからだ。

現政府の威信を傷つけた判決もある

焦点は野党「共に民主党」代表の李在明(イ・ジェミョン)をめぐる疑惑だった。李の不動産投資や北朝鮮への不正送金をめぐる疑惑について検察が求めた李の逮捕は、野党の分裂にも助けられ国会の同意も得た。しかし、ここでソウル中央地裁が検察の逮捕状請求について容疑に不十分な部分があり、「証拠隠滅の恐れがあると断定するのは困難」として棄却した。検察と捜査を支援した与党・政府の威信は大きく傷ついた。

野党党首をめぐる疑惑と歴史認識問題をめぐる一連の裁判はそもそも性格が全く異なる事件であるが、それでも結果を分けた原因を分析するなら、1つは韓国世論の関心の違いだろう。

例えば、韓国の代表的な進歩派新聞であるハンギョレ新聞の慰安婦問題に関する記事は、朴が刑事訴追された14年から22年の間に4分の1近くにまで減少している。徴用工問題への関心も同様で、ピークの19年から比べると昨年の報道量はわずか10分の1近くに減った。対してハンギョレ新聞の李の疑惑への関心は高く、21年以降、不動産疑惑の中心である「大庄洞」に関わる記事の数は、毎年400件を超えている。

だからこそ、裁判所はこの問題の審理に慎重だった。逮捕状執行をめぐり、李が地裁に入ったのは9月26日午前。9時間に渡る事情聴取を含め、裁判官が熟考の末に決定を下した時、時計は日付をまたいだ27日未明を示していた。そこに世論の高い関心に配慮する裁判官の苦悩を見るのは容易だ。

明らかなのは、司法が世論の関心を考慮して判断を下していること自体は変わらないが、歴史認識問題についてはその前提となったかつての大きな関心が失われた結果、司法が冷静に判断を下せるようになっている、ということであろう。だとすると重要なのは、政権からの干渉よりもむしろ、個々の問題が「政治化」せず、人々が冷静に議論できる環境なのだろう。

だとすれば、われわれ日本人にとっても重要なのは、一喜一憂して大騒ぎしないこと、なのかもしれない。


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