新型コロナウィルスパンデミックの禍中、自宅待機のこども3人の育児の合間に書き上げた映画論
ニューズウィーク日本版 / 2023年12月15日 11時10分
<映画制作者たちへの多大なリスペクトと、そしてアーカイブへの敬意と恩返し。第45回サントリー学芸賞「芸術・文学部門」受賞作『姫とホモソーシャル──半信半疑のフェミニズム映画批評』の「受賞のことば」より>
わたしは、第二次世界大戦期の日本映画の海外進出に関する研究から、映画研究者としてのキャリアを開始しましたが、ここ10年ほどは昭和期の幻灯(スライド)を中心に、労働運動をはじめとする社会運動が、映画、幻灯といったフィルムのメディアをどのように活用してきたかについて、全国各地に散逸している一次資料を掘り起こすところから研究を進めてきました。
映画学、日本映像文化史の研究者としても、かなりニッチな分野を専門としてきたわけですが、初の単著となる『姫とホモソーシャル』は、これまで『ユリイカ』『現代思想』ほかの依頼により執筆してきた、よりメジャーな商業映画に関する文章をまとめたものです。
こちらは、英語圏のフェミニズム映画批評・研究の成果をある程度は意識しながらも、厳密にアカデミックな論文として構えて書いたというわけでもなく、宝塚歌劇版『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を妄想する第1章はじめ、比較的好きなように書かせてもらった映画批評が中心となります。
比較的好きなように書かせてもらったとはいえ、楽に書かせてもらったと申し上げることは到底できません。
本のあとがきでも、黒澤明監督『羅生門』の千秋実のせりふ「来る年も来る年も災いばかりだ」を引用しましたが、COVID-19パンデミックが到来し、学級も保育所も閉鎖に次ぐ閉鎖の災いの連続の中で、自宅待機がちな子ども3人の相手をしながら、本1冊をまとめるというのは、明らかに無理があったのですが、たまたま家事育児をいとわない献身的な配偶者がいたために、道理が引っ込んで無理が通り、2022年11月に『姫とホモソーシャル』が世に出ることになりました。
大学院博士課程修了以来、専任の帰属先のないまま研究生活を続けるのはなかなか厳しく、「いよいよ廃業か」が口癖のようになってしまいましたが、科研費に2度採択されたほか、廃業の瀬戸際で若干の猶予ができるような出来事もぽつぽつとあったため、どうにか今日までやって参りました。
このたびは、こうして大変光栄な賞をいただき、またしても猶予ができたようですので、昭和戦中~戦後の幻灯/スライド史研究のまとめほか、ここからやれるだけのことはやり切ろうと意気込んでおります。
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