1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

17歳で出産、育児放棄...25歳で結婚、夫が蒸発...「後悔なんてしない」「過去は振り返らない」は間違い

ニューズウィーク日本版 / 2023年12月6日 17時45分

性別も信仰も政治思想も異なるアメリカ文化の二人の巨人も、この信条を共有している。

ポジティブ思考の始祖であるノーマン・ヴィンセント・ピール牧師は、「いっさい後悔などすべきでない」と説いた。ピールは二〇世紀アメリカのキリスト教信仰のあり方を形づくった人物であり、保守派の大統領であるリチャード・ニクソンやドナルド・トランプの師でもあった。

一方、「後悔することで時間を無駄にしてはならない」と語ったのは、ルース・ベイダー・ギンズバーグだ。アメリカの連邦最高裁判所の判事を務めた史上二人目の女性であり、信仰はユダヤ教。晩年はアメリカのリベラル派の間で女神のように崇められる存在になった。

あなたの町の書店で自己啓発本の棚に並んでいる本を調べれば、ざっと半分は同様のメッセージを説いているに違いない。米国議会図書館には、『No Regrets』というタイトルの書籍が五〇点以上所蔵されている。

人々の肌に彫られて、数々の賢人たちに信じられている「アンチ後悔主義」は、当然正しいものだと思われているらしい。

この考え方は、無批判に信奉されている場合が多い。「つらい感情をわざわざ経験する必要などない」「ポジティブ思考の温かい陽だまりでぬくぬく過ごせばいいのに、雨雲を呼び寄せるなんて馬鹿げている」「未来の無限の可能性を思い描けるときに、過去のことでくよくよするなんて意味がない」......。

こうした発想は、直感的には理にかなっていそうに思える。正しく、説得力のある主張に感じられるかもしれない。しかし、そこには、見過ごせない欠陥がひとつある。

この考え方は、決定的に間違っているのだ。

アンチ後悔主義者が勧める行動を実践しても、よい人生を生きることはできない。その主張は、端的に言って――過激な言葉を使って恐縮だが、このように表現するほかないと思っている――救いようのないデタラメだ。

後悔することは、危険でもなければ、異常でもない。幸福への道からはずれるわけでもない。それはきわめて健全で、誰もが経験し、人間にとって欠かせない感情だ。

それに、この感情は有益でもある。ものごとが明確になるし、今後に役立つ教訓も引き出せる。正しく後悔すれば、かならず精神が落ち込むとも限らない。むしろ、精神が高揚する可能性だってある。

このような考え方は、はかない白昼夢のような空想でもなければ、血も涙もない冷酷な世界で安らぎを感じるためにでっち上げた甘ったるい希望的観測でもない。それは、過去半世紀以上積み重ねられてきた科学的研究により研究者たちが到達した結論だ。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください