目標だった「福田ドクトリン」は今や現実に 日本とASEAN50年の歩みと、これからの協力関係
ニューズウィーク日本版 / 2023年12月15日 16時0分
JICAとしては、官民連携を通じて、民間の資金や技術・知識など外部のリソースを巻き込み、JICAの狙う協力をより拡充していくと同時に、各企業の活動を、例えば開発やサステイナビリティの視点からより良いものにする支援なども検討して、さらに効果の大きい協力を生みだしていきたいと思っています。
(左)急速な高齢化が進むタイでは、介護サービスの制度化に向けた支援や高齢者の健康増進活動にJICAが協力 (右)ラオスでは国内の電力需要増に対応するため、日本の有償資金協力で環境負荷の少ない水力発電所の拡張事業が進んでいる(写真はいずれも久野真一が撮影)
共に成長する真のパートナーとして
──日本は今後ASEAN諸国からどのような役割を期待されているのでしょうか。
早川 これまで同様、共に成長する真の信頼できるパートナーであり続けてほしい、という期待を感じています。それはまさしく「ASEANと『心と心の触れあう』関係を構築する」「日本とASEANは対等なパートナーである」と述べた「福田ドクトリン」そのものだとも言えます。1977年に表明されたこのASEAN重視の外交政策は、当時は「こうあるべき」という規範であり目標でもあったと思いますが、今や、まさにそれらが現実のものとなっています。
またASEAN諸国との間では旅行者や働き手の往来も大きく増えており、貿易・投資・金融をはじめ、学術研究、ポップカルチャーなど、他地域に比べても堅固なつながりになっています。その中でJICAが果たせる役割は、より触媒的なものになっていくと考えています。
──ASEANからの期待を踏まえ、JICAは今後どのようにASEANと向き合っていくのでしょうか。
早川 ASEANとは、これから地域全体の開発、さらには東南アジア地域を超えたグローバルな課題解決に一緒に取り組んでいくことが重要です。シンガポールやタイといったパートナー国とは、それぞれ個別に連携して一緒に第三国研修プログラム を実施するなど、各パートナー国内に限定されない、ASEAN地域全体の開発に向けて協力する動きが拡大しています。シンガポールやタイをはじめ、インドネシアやマレーシアも自ら開発協力機関を立ち上げ、規模はまだ限られていますが「援助する国」に成長しつつあります。
そうした中で重要なのは、従来以上に謙虚な姿勢で相手に耳を傾けていくことです。シンガポールやマレーシアなどはもちろんなのですが、それ以外にもASEANの中には、すでに自らの信用力に依拠した国債発行などによって、金融市場から資金調達できる状況に移行しつつある国もあります。それでもなお「JICAと一緒に課題の解決に取り組みたい」と思ってもらえる理由は、単なる資金援助や技術の提供ではなく、成長に向けたビジョンを一緒につくり上げていく対話そのものに価値を見出してくれているからではないでしょうか。その上で地域のさまざまな課題に協力して対応し、さらにはグローバルな課題の解決に共に取り組んでいければ、JICAの協力の効果にも大きなレバレッジをかけることができるはずです。
JICAはこれからもASEAN諸国の声を聞きながら、そして東南アジアの優れた部分については謙虚に学びながら、地域全体の成長を支え、地域と世界の課題解決のために新しい価値を共に生みだす「真のパートナー」であり続けたいと考えています。
※当記事は「JICAトピックス」からの転載記事です。
(関連リンク)
アジア各国におけるJICAの取り組み
ASEAN創設50周年「質の高い成長」を支える日本の経験と技術
JICA Magazine日本ASEAN友好協力50周年特集号
※JICAトピックスより転載
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