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世界で注目集める「数十年で完成する小さな森」、考案したのは日本の植物学者だった

ニューズウィーク日本版 / 2023年12月14日 17時40分

その方法とは、有機質豊富で通気性の良い表層土を用意し、土地本来の植生に合う樹種の苗を近距離に混植・密植させていくというものだ。森の機能をある程度整えた環境で木々の「競争」を促すことで、森は一気に極相に達するのだという。

宮脇氏は人間活動の影響が停止した際、その土地がどんな植物に適した自然環境を有しているかを見極めるドイツ発祥の「潜在自然植生」という理論を研究していた。

日本の津々浦々の植生を調べ上げ、寺社に残る照葉樹林が土地本来の植生を体現した森であることを確信する一方、国土の大部分がそうでないスギやマツ、ヒノキなどの画一的な人工林に覆われていることを危惧していた。

「潜在自然植生」理論に沿った森は、根が直根で深く、大地震や津波の災禍を生き抜くたくましさがある。自然災害の多い日本では土地本来の植生に沿った森をもっと増やすべきだと主張し、企業や国などと協働しながら、2021年に93歳で亡くなるまで4000万本以上の植樹に携わった。

イギリスの森林面積は国土の約13%。小規模でも都市の森林を増やすことは、洪水抑制やヒートアイランド現象の緩和、生物多様性の向上、地域コミュニティの強化などにつながり、メリットは大きい QQ7-shutterstock

気候変動対策の切り札に

経済性を念頭においた人工林とは真逆の発想から生まれた小さな森作り。「植樹はその土地本来の木を主木とし、自然の法則に従うべき」という宮脇氏の考えはイギリスだけでなく、EU諸国、アフリカ、アメリカ、南米アマゾンにまで広がり、共感を呼んでいる。

植林は有望な気候変動対策の一つに挙げられている。世界経済フォーラムは2030年までに1兆本の木を植える「1t.org」プロジェクトを打ち出したが、人工林よりも炭素ストックや生物多様性の面で優るといわれる宮脇方式は、特に都市部の植林方法として支持を集めている。

「1t.org」のプロジェクトパートナーでもあり、世界に造林者ネットワークを持つプラットフォーム企業SUGiは都市の植林方法をすべて宮脇方式にこだわる。フランスやベルギーの都市部で小さな森作りを進めているアーバン・フォレスツ財団やアースウォッチ・ヨーロッパの活動も同様だ。

英ブラックプールで子供たちと「小さな森」の植樹を行うアースウォッチ・ヨーロッパの職員 Credit Duncan Elliott

植樹から6カ月後の小さな森(2020年10月撮影) Credit Earthwatch

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