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「イデオロギーの対立」は社会にどれくらい根付いているか?

ニューズウィーク日本版 / 2024年2月5日 17時0分

なお、この連載第1弾での分極化に関する日米比較では、リベラル29%、中間23%、保守48%と表記しているが、これは米国の調査結果との比較可能性から「わからない」を除いて分析をしているためである。

2010年代の政党レベルにおけるイデオロギー分極化の現象の一方で、有権者レベルでは、イデオロギー対立の進行はそれほど進んでおらず、かなりの数の人はイデオロギー位置を自認していない。保守対リベラルといっても有権者の半数程度の間の対立でしかない。

それでは、有権者自身は社会の対立についてどのように認識しているのか。SMPP調査では様々な社会集団を取り上げて、それらの間で対立が生じていると思うかどうかを尋ねている。社会では、イデオロギー的な対立(保守対リベラル)だけでなく、労使、世代、都市地方、ジェンダーなど、様々な対立があるが、その中で最も多くの有権者に認識されているのはどの対立か、また、そのなかでイデオロギーはどこに位置づけられるかを検討するため、この質問項目を調査に含めた。

図3 社会対立質問の回答分布

図3では8つの対立カテゴリーについて、「強い対立がある」「やや対立がある」を合算した割合が大きい順番に並べた。その結果、最も多くの日本の有権者が対立を認識しているのは労使対立であることがわかった。その次に貧富の対立であり、この2つは5割を超えている。つまり、経済的な対立について多くの人々が認識をしているのである。この結果は、同様の問題を扱った過去の調査結果とも整合的である。それに続いて多いのはジェンダー対立であり、43%を占める。主観的な対立についての質問でジェンダー対立を含めたものは他になく、今回、初めて明らかになった点である。

イデオロギー対立はそれらに比べると広がりを欠いている。世代対立、都市地方対立のような、しばしば日本政治で主題となるようなカテゴリーも同様に39%程度で並んでいて、それほど多くの人に認識されているわけではない。また、認識が最も低いのは外国移民との対立であるが、これは欧米各国で広がっている社会問題ではあるものの、まだ日本では認識がほとんどない。

ここまでの調査結果からも、日本の分断を考察するとき、従来型のイデオロギー対立にのみ着目するのは十分でないことは明らかであろう。もちろん、イデオロギーには様々な政策争点を統合する機能があり、政治を議論し意思決定をするために不可欠でもある。しかし、有権者の多くが共有していないのであれば、それは日本社会全体を見通すときの手がかりとしては心もとない。

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