イスラエルのガザ攻撃に対する「イランの民兵」の報復で米軍兵士が初めて死亡:困難な舵取りを迫られる米国
ニューズウィーク日本版 / 2024年1月29日 19時0分
昨年12月18日に実施された最初の攻撃では、スワイダー県の国境地帯、サルハド市、シュアーブ村の近郊、ダルアー県のマターイヤ村近郊の密輸ルート、密輸業者の潜伏先に爆撃と砲撃が行われ、女性1人と子供2人を含む5人が死亡した。2度目となる1月9日の攻撃では、スワイダー県のウルマーン村、マラフ町近くの農場1ヵ所、シュアーブ村北の1ヵ所、同村南の1ヵ所への爆撃を実施、地元の大物密輸業者1人を含む3人を殺害した。1月18日の3度目の攻撃では、ウルマーン村にある民家2棟を爆撃、女児2人と女性7人を含む10人を殺害した。
ウルマーン村の爆撃跡(Facebook(@Suwayda24)、2024年1月18日)
一連の攻撃に関して、シリアの外務在外居住者省は1月23日、ヨルダン軍の攻撃を正当化し得ないと非難、両国の関係修復継続の動きに緊張と悪影響を及ぼす行為は慎むべきだと表明した。これに対して、ヨルダンの外務省も同日、シリア側に密輸業者の氏名やその背後にいる勢力、麻薬製造場所などの情報を提供したにもかかわらず、何らの真摯な対応が行われなかったと反論、シリアからの麻薬や武器の密輸がヨルダンの安全保障に脅威を与えていると非難した。
米国と距離を保とうとするヨルダン
シリアとヨルダン政府の関係がぎくしゃくするなかで、今回の米軍基地に対する攻撃が、シリア領内からの越境攻撃であったとしたら、密輸撲滅に加えて、報復というシリアへの越境攻撃の根拠をヨルダンに与えていたに違いない。だが、ムバイディーン内閣報道官兼通信大臣がヨルダン領内の米軍基地への攻撃を否定した背景には、米国がシリアやイラクに対して行うであろう新たな報復、そしてそれに対する「イランの民兵」側のさらなる報復という暴力の連鎖に巻き込まれるのを回避したかったからだと考えられる。
加えて、ヨルダンが「イランの民兵」と対立を深める米国に過度に同調、あるいは連携することは、米国がガザ地区へのイスラエル軍の攻撃に歯止めをかけることができない(あるいは歯止めをかける真の意思を欠いている)なかで、ヨルダン国内やアラブ世界における反イスラエル感情を逆撫でしかねない。ヨルダンは米国と一定の距離を保とうとしているとも解釈できるのだ。
シリアからの撤退を模索する米国
ことの真相がいかなるものであれ、米国と「イランの民兵」の攻防が激化することが懸念されていることだけは誰の目からも明らかだ。にもかかわらず、米政府がシリアからの撤退について検討しているとの報道が、最近になって米国メディアにおいて行われた。
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