【密着取材】「これだけの成果のためにどれだけ犠牲が...」 ウクライナ「反転攻勢」が失敗した舞台裏
ニューズウィーク日本版 / 2024年2月1日 19時14分
反転攻勢に世界の関心が集まっていた頃、テレビの報道番組で開始時期や戦術について議論することを避けるよう、アナウンスされたこともあった。古今東西、戦争に箝口令は付き物だが、ウクライナ政府は死傷兵の数は公表しないと宣言するなど、その姿勢が徹底されている。
しかし前線の兵士は唯一の楽しみとして、衛星通信を使って家族や友人と話したり、映像を送ったりしている。それらの情報を通じて、ウクライナ国民はむごたらしい戦場のありさまを見せつけられてきた。
開戦1年目、筆者が所属する人道支援団体では4人の若者が志願兵として前線に向かった。それが2年目には皆無になった。連日、数百人の死傷者が出たバフムートの戦いが影響したようだ。
ウクライナ中部からドンバス地方へ支援物資を運んでいる30代のトーラはこう話す。「いつかは軍に入って、自分も戦わなくてはいけないと感じている。でも今は無理だ。家族も許してくれない」
軍のリクルーターが通りや地下鉄で招集令状を手渡すという強引な勧誘も逆効果だった。徴兵を避けたい若者は、できるだけ自宅から外へ出ないようにしているという。
西部の都市で家族と暮らすある男性は昨年の秋、東部の街へ「転居」した。「僕の町でも、外を歩いていたときに徴兵された友人がいる。だから前線に近い町に移ることにした。若者が少ないから誘われる可能性が低い、と聞いたので」
雑貨屋には文民姿と軍服姿を組み合わせたゼレンスキーのブロマイドが(同11月、ザポリッジャ) PHOTOGRAPH BY TAKASHI OZAKI
「必要なのは軍隊の改革だ」
年が明け、ウクライナ政府は追加動員に関する法案を取り下げる事態に陥っている。招集令状を電子メールで送り付けるなどの手法が憲法違反に当たると指摘されたからだ。兵士不足の解消は見通せなくなった。
ウクライナ軍の現状を憂える声もある。ドネツク州北部にある第15連隊の歩兵、マキシム・アブラモブ(26)は「いま必要なのは軍隊の改革だ。訓練や選抜の方法を刷新する必要がある」と訴える。
マキシムは戦闘中にロシア軍の攻撃を受け、3度負傷した。右肘は激しく損傷し、ドイツで手術を受けた。いま部隊に戻り、ルハンスク州クレミンナで任務に就いている。「戦争は数だけそろえて勝てるものではない」と彼は言う。7割もの兵士が実戦を経験していない部隊もあるというウクライナ軍は、マキシムの提言に応えることができるだろうか。
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