【密着取材】「これだけの成果のためにどれだけ犠牲が...」 ウクライナ「反転攻勢」が失敗した舞台裏
ニューズウィーク日本版 / 2024年2月1日 19時14分
ピークを迎えたのはクリスマスイブの12月24日。砲撃を受けた戦車の中で火だるまになったのか、顔と頭がススと血まみれになった兵士が運ばれてきた。次は、左腕にロケットの破片が当たり、縦に3カ所裂けた状態の兵士。左足のアキレス腱に被弾し、裂け目から血が滴り落ちている兵士もいる。
ユーリたちは酸素マスクを兵士の口に当てたり、消毒液を染み込ませたガーゼを用意したりして、治療の援助をした。
今年1月、活動を終えたユーリからメールが届いた。「私たちは10日間、避難車両を運転し、傷ついた兵士を手術台に運び、全ての傷を洗い、医師をサポートした。仮眠できたのは数時間。それも手術台の上だった。これがアウディーイウカだ」
アゾフ旅団のアレクサンドルは今、バフムートの南にあるアンドリーウカで指揮を執っている。ウクライナ軍はこの周辺、約54平方キロの奪還には成功したものの、昨年の秋以降、ロシア軍から繰り返し攻撃を受けている。
銃撃戦で倒れた仲間を救出するため、アレクサンドルはある道具を使うことにした。金属製のフックに長いロープを付けた鉤(かぎ)縄だ。「至近距離での銃撃戦の最中、腰を上げたら最後、やられてしまう。だからこれを負傷兵めがけて投げるんだ」
腕力を振り絞って手繰り寄せた仲間が息絶えていることもある。それでも、生きていてくれと願ってこれを投げる。
シベルスクの分隊長ユージンは前線で年を越した。チェコに避難中の妻や子供と会うことはできなかった。妻はインターネット電話で、「きっとうまくいくよ」と励ましてくれた。
最近、砲弾が不足してきたため、手作りしてしのぐこともある。マイナス14度のいてついた塹壕で戦う部下のことが気がかりだ。
「見てくれよ。開戦初日に出征した兵士が、まだここにいるんだ。みんな精神的にも肉体的にも疲れている。勝利が訪れるのは1年後? それとも4年後? 戦況を逆転させるには何らかの策略が必要だ。戦闘機抜きの攻撃などあり得ない」
PHOTOGRAPHS BY TAKASHI OZAKI
<本誌2024年2月6日号掲載>
尾崎孝史(映像制作者、写真家)
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