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「人質斬首」イスラム国はまだ終わっていない

ニューズウィーク日本版 / 2024年2月8日 16時38分

「夫はイラク政府に不当に拘束された女性たちを解放するための戦いだと言っていた。私は止めたけれども、夫の考えは変わらなかった。それで夫と離婚したけれど、彼のことが原因で仕事が何度も不採用になった」

ISの被害者の多くは、元IS関係者が出所して自分の近所に戻ることをよく思わない。たとえその人物が殺人を犯してはいなくても、IS関係者だったことへの嫌悪感がある。出所者は、「元ISメンバーだ」というスティグマ(社会からの烙印)に苦しむことになるのだ。

32歳の息子がISに加わった容疑で捕まっている女性は、「息子は無実。でも、もう10年刑務所にいる。近所の人も無実だと知っているはずなのに、私とは関わらないようにしているのが分かる」と話す。出所者は、関係者家族よりもさらに厳しい視線にさらされるのは容易に想像がつく。

シリア北東部ハサカの刑務所に収容された元ISの関係者(2019年)

民族と民族の間で翻弄

地域へ帰ることが難しい理由は、イラク国内の特殊な事情とも関係している。イラクは連邦制で、首都バグダッドにあるイラク中央政府と、クルド人を中心にした北部のクルド人自治区がある。自治・独立の在り方、境界線などをめぐって、両者はやや緊張関係にある。

司法制度に関してもいびつな状況にある。数年前のIS掃討作戦で、クルドの治安部隊に拘束され、クルドの刑務所に収監されたISの戦闘員も多い。彼らはクルド人自治区で服役することになる。

しかし刑期を終えてイラク中央政府の管轄下にある家に戻ろうとすると、中央政府側の法律が適用され、中央政府側でも刑期を科されるという事態が起きている。クルド人自治区での懲役期間は算入されないので、一から刑期を務めなければならない。

このような元囚人たちが向かう場所の1つが「ハサンシャム避難民キャンプ」である。クルド人自治区にある北部の町アルビルと、中央政府管轄下の都市モスルの間にある緩衝地帯に位置する。クルド人自治区での滞在資格がなく、また中央政府管轄地域で再び刑を科されるのを避けようとする人々が集まっているのだ。

元囚人だけでなく、親戚にISメンバーがいたという女性や子供たちも、地域住民からの報復を恐れて暮らしており、他の避難民も合わせて全体で1万2000人に上る。

罪を償うために適切な刑期が科される必要はあるものの、イラク国内でも改善の余地があると議論されている法律の在り方が原因で、先に進めない人々がいる。ISとの戦争終結から7年がたち、イラク政府は復興に向けて、全国の避難民キャンプを既に閉鎖、あるいは閉鎖する方向で動いている。

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