1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 国際
  4. 国際総合

「人質斬首」イスラム国はまだ終わっていない

ニューズウィーク日本版 / 2024年2月8日 16時38分

さらに問題は隣国シリアとも関連している。シリア北東部のクルド人支配地域に、約1万人のIS関係者が拘束されているのだ。うち3000人がイラク人である。

ISが支配していた当時は、戦闘員や支配下の人たちはイラクとシリアの国境を自由に行き来していた。19年にシリアで最後のISの拠点とされたバグズが陥落し、イラクから来た戦闘員や支配下の人々はシリアの治安機関に拘束された。女性や子供たちは、シリア北東部のアルホル難民キャンプとロジ難民キャンプへ、男性は刑務所や収容所へと送られた。

シリア北東部は首都ダマスカスにある政府ではなく、クルド人勢力が実効支配している(イラクのような公式な自治政府ではない)。協力関係にある米軍の支援も受け、刑務所を運営している。刑務所を訪れたことがあるイラク人の報道関係者によると、「イラクの刑務所が5つ星ホテルに見えるほど、シリア北東部の刑務所は悲惨だ」という。

別のシリア人報道関係者は、外国籍のIS関係者の問題についてこう指摘した。

「イラク人などの外国人はシリアに滞在する資格がないため、刑期を終えてもシリア人と違って釈放することができない」

釈放してしまえば彼らは不法滞在になる。本国への帰還は、相手国政府が非協力的なため進んでいない。

最大の犠牲者は子供たちだ。強制されて参加した少年兵や当時の記憶さえあまりない子供もいる。彼らも同じように少年刑務所や、キャンプに入れられる。子供に対しては脱過激化や基礎教育などもわずかながら行われている。しかし、18歳になると自動的に大人の刑務所に送られるのだ。刑務所に入ればこれまでのリハビリが生かされることはほぼない。

ISは、「カブス・オブ・ザ・カリフ」という10歳から15歳の少年兵組織をつくっていた。19年のシリア最後の拠点陥落で拘束された時には13歳ほどだった少年が5年たち、刑務所に入れられるという時期に来ている。刑務所しか生きる場所がない人たちがつくられているのだ。

ISの襲撃で破壊され、500人が死亡したハサカの刑務所(2022年1月) EPAー時事

「元イスラム国」の自国民を帰国させない国

イラク政府は21年頃から、アルホルキャンプにいる女性や子供を、過激性の低い人から順にイラクに帰還させる取り組みに力を入れている。

一方で、欧米諸国は自国民のIS関係者の帰国を長年拒否してきた。

イラクやシリアの刑務所には、アメリカ、イギリス、フランスなど50カ国以上の国籍者がいる。欧米諸国は時に、中東の刑務所事情について、人権の観点から批判をする。しかしイラク国内からは、欧米が問題を全てイラクやシリアに押し付けていると批判の声が上がっている。地元政府やNGOも問題に取り組んではいるものの、資金・経験不足などさまざまな要因で難航している。

シリアではIS残存勢力による刑務所やアルホルキャンプへの襲撃事件が絶えない。22年1月には北東部ハサカの刑務所襲撃で500人が死亡し、脱走者も出ている。今年1月末には、クルド軍らによるアルホルでの掃討作戦が行われた。

現在、イラク・シリア情勢はISの最盛期と比べればよくなったように見えるかもしれない。しかし、問題は新たな形で続いている。ISが再拡大する可能性は、常にあるのだ。


伊藤めぐみ(ジャーナリスト)


この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください