世界から日本に帰還する美術、しづらい音楽、世界に溶け込む盆踊り...「二極的アイデンティティ」を超越する芸術の潜在力について
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月3日 11時0分
美術の場合は浮世絵版画と工芸品で圧倒的なジャポニスムの流行があって、日本からフランスに留学した例えば洋画家たちも、日本の文化の受容のされ方を目の当たりにし、何らかの形で影響を受けて帰らざるを得ない状況がありました。
張 その結果として、日本国内では日本画と洋画が共存している状況がありますが、海外において日本の絵画はどのように受け止められたのでしょうか。
三浦 伝統的な日本画は、海外でも高くは評価してもらえないのではないかと思います。洋画も評価してもらえない。なぜかというと、西洋絵画の模倣と見られるからです。これは、やはり西洋近代芸術の価値観がいかに世界を席巻したかという、そのあかしでもあります。
ただし、日本の洋画で、西洋でも評価されるものがあるとしたら明治から昭和の間の洋画です。その場合は、例えば高橋由一や、青木繁、岸田劉生のように越境をしなかったために西洋絵画の洗礼を直接浴びなかった画家の作品のほうが向こうで評価される可能性があるんじゃないかと思います。
張 彼らは、模倣というふうに見られないのですか。
三浦 単純に模倣とは言えないと思います。日本の洋画家たちはもちろん西洋に学んでいますが、自分の持っている感性と格闘して、それがオリジナルな形で強く表出されているものがやはり評価されるんじゃないかなと思います。
張 そもそも、わたしたちは何気なく日本音楽や東洋音楽、あるいはイスラム音楽といった言葉を使います。各国の文化が往還している時代に、こういった文化圏の名前を冠した音楽は現存しているのでしょうか。長木先生、いかがでしょうか。
長木 言葉としてはまだ生きていますが、大半が西洋化された音楽になってしまっています。例えば、1980年代ぐらいからいわゆる「ワールドミュージック」という言葉が盛んに言われるようになりました。
しかし、このワールドミュージックは基本的に西洋音楽ベースの和声構造とか旋律構造を前提にしている音楽です。例えば日本音楽についてヨーロッパの人に聞くと、久石譲などがその代表としてあげられるでしょう。
インドネシアのケチャのように、観光用にしかその地域の伝統音楽が残っていないということもありますが、それもそれで意味があるという捉え方もあります。
張 日本の音楽教育における西洋音楽の受容についてはいかがでしょう。
長木 日本の場合は、東京音楽学校が日本音楽をカリキュラムに導入したのが1930年代半ばで、これはナショナリズムと関わっています。それ以前の東京音楽学校では西洋音楽だけが教えられてきました。
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