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分子構造を「アート」に変換...「モノ好きな医者」が手がけるポップなイラストを楽しもう

ニューズウィーク日本版 / 2024年3月21日 14時30分

実際、私のアートは壁を飾るだけでなく、教育のツールとしても役立っている。肉眼では見えない分子の構造も、ポップアートで可視的に表現すれば親しみやすくなる。それで私たちの生きる生物界、自然界への興味を深めてもらえたらうれしい。

■自分の染色体も!

誰にでもお気に入りの作品はあるものだ。私の場合は、例えば研究室の助手時代に扱っていたバクテリオファージ(バクテリアを食べるウイルス)T4の勇姿を描いた一枚。

自分の染色体モデルも気に入っている。医学生時代に選択科目でヒト遺伝学を学んでいたときのこと。患者さんの染色体を撮影する実習があり、ついでに(せっかくのチャンスだ!)自分の染色体も撮影し、大胆に彩色した。その絵は自宅の壁に飾ってあるが、客人に説明すると、みんな驚き大喜びする。

■新たな挑戦

これまでに200種類ほどの分子構造を描いてきたが、新しい作品の構想が尽きることはない。

敬愛する(ポップアートの巨匠)アンディ・ウォーホルの作品は、シルクスクリーンを用いた超絶技巧ゆえに一目で彼のものと分かる。私も、いつか自分の最高にカラフルな作品のいくつかを大判のスクリーンプリントにしようと計画している。この技法を使うと、色彩が鮮やかに仕上がるだけでなく、一枚一枚がオリジナルになる。毎回手作業でインクを重ねていくから、決して同じものはできない。

最新の技術にも興味があり、3Dプリントで作成した学術的な作品をポップアートに加工する挑戦もしている。

■芸術と科学をつなぐ

この年になるまで、自分のアーティスト魂が目覚めなかったのはなぜか。思うに、研究と仕事のプレッシャーが大きかったからだろう。若手の医師として働いていた時代は忙しすぎて、趣味や読書の時間は皆無に等しかった。

かつての私もそうだったが、たいていの人は科学者タイプと芸術家タイプは水と油だと思っている。でも、それは大きな誤解だ。実際のところ、医者や科学者として働きながら最高級の文学作品や美術作品を発表してきた人はたくさんいる(あのチェーホフだって医者だった)。

若い頃の自分にアドバイスをするなら、仕事を引退する年齢まで待たずに、若いうちからアートを探求するよう勧めたい。もちろん、現役を引退してから始めるのも悪くない。私自身、この年になってポップアートの手習いを始めたことを後悔していない。

アートは誰でも楽しめる。鑑賞するもよし、創作するもよしだ。医者も科学者も、みんなサイエンスとアートが交わる魅惑の世界を探求すればいい。そうしてミクロな分子に、マクロな世界での新たな生を与えてやろう。絵でも音楽でも、文章でも映画でもいい。とにかく急がず無理もせず、アートへの旅を存分に楽しんでくれ!

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ドリュー・プロバン(医師)


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