衝撃の実話「私は銀行から大金を強奪した指名手配犯」死を前にした父が告白
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月12日 22時0分
<仲が良かった父との関係が変わってしまった......。米ポッドキャスト司会者の手記>
あなたは誰かのことをどれくらい理解している? そう聞かれたら、数年前の私なら、誰にでも自分自身のようによく分かっている人が2、3人はいる、と答えていたと思う。
私にとって、「よく分かっている人」には父も含まれていた。だがそれも、父がこの米マサチューセッツ州の片田舎に身を潜める逃亡者だった、と判明するまでのことだ。
父と私はすごく仲が良かった。彼は自動車関係の仕事で大忙しだったが、私のためにいつでも時間をつくってくれた。私が大人になり、ニューヨークで1人暮らしを始めるとキャリアの相談に乗ったり、失恋したときはアイスクリームをおごったりしてくれた。
全てが一変したのは2021年の春。父は進行性の肺癌と診断され、私は介護のため実家に戻った。治療法はなく、もはや死は避けられなかった。
ある日、父は居間で突然言った。「話しておかなきゃならないことがある。ここに越して来た時、私は名前を変える必要があった。当局は今も私を捜しているはずだ」
その時は奇妙な冗談だと思ったが、翌日父と2人きりの時に、詳しく話してほしいと切り出した。父は苦しそうに打ち明けた。本当の名前はテッドだ。問い詰めると姓は「コンラッド」と答えた。
その夜遅く、テッド・コンラッドを検索した。オハイオ州クリーブランドの銀行の金庫室担当者だったが、袋いっぱいの現金を強奪して逃亡したという記事を読んで、ベッドから転げ落ちそうになった。
総額は現在の価値で180万ドル相当。重要指名手配犯の捜査番組でも取り上げられており、父の言うとおり米連邦保安局はまだ彼を捜していた。
翌日、秘密を知ってしまったと父に伝えた。彼が今の「トム・ランデル」になる前の人生を語り出した時、まるで初対面の人のように感じた。
父を守る最善の方法
父は私とは正反対の幼少期を過ごしたという。よそよそしい軍人の父親と、子供に無関心な母親。結局両親は離婚し、父は母親の再婚相手に虐げられた。高校卒業後は、実の父親が助教を勤めるニューハンプシャー州の大学に入学。だが父親の再婚相手に嫌われて父親に退学を強いられ、実家に戻ることに。地元の銀行に職を得た時は、一から出直すことを夢見ていたという。
私のポッドキャスト『逃亡者の父』で取材を進めるうち、父の事件が衝動的な犯行ではなかったことも判明した。父は家族に秘密を打ち明けてから約1カ月後に亡くなった。重荷から解放されて安堵したようだったが、私は打ちのめされた。亡くなる前に物事を解明できなかったからだ。
半年後に誰かの通報で、1969年以来父を追い続けた連邦保安官がわが家を訪ねてきた。間もなく記者会見が行われ、52年にわたる捜査の終結を発表。全国ニュースになり、家には記者が押し寄せた。
私のポッドキャストで現在、共同司会者を務めるジョナサン・ハーシュに出会うまで、私は父の過去について公に話したことはなかった。でも父が銀行強盗犯とだけ記憶されるのは耐え難く、本当の父を知ってほしいと思っていた。
番組を作ることは父を守る最善の方法であり、父の嘘を理解する手段でもあった。彼の死を寂しく思う気持ちはずっとなくならないだろうが、少なくとも今の私は、トムだけでなくテッドについてもよく理解しているつもりだ。
アシュリー・ランデル(ポッドキャスト司会者)
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