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標的の癌細胞だけを免疫システムが狙い撃ち...進化型AIを駆使した「新たな癌治療」とは?

ニューズウィーク日本版 / 2024年5月1日 10時35分

ディアスはその後、研究の規模を拡大して被験者を86人に増やした。癌の種類は12種類だったが、いずれも「ミスマッチ修復機能欠損による癌」に罹患していた。つまり、リンチ症候群(DNA複製の際の特定の種類のエラーを修復する能力がない)によって引き起こされるものだ。また今回は、末期ではなく転移癌と診断されて間もない患者を対象とした。その結果、患者の4分の3で効果が認められ、うち18人は完全な寛解までこぎ着けた。

17年に科学誌サイエンスで発表されたその結果と他の4研究の同様の結果を受けて、FDAは、最初に癌が発生した部位にかかわらず、「ミスマッチ修復機能欠損」による遺伝子変異を伴う、全てのタイプの末期癌の治療薬として免疫療法薬を認可した。FDAが「臓器横断的」な癌の治療薬を認可したのはこれが初めてだった。以後ラロトレクチニブ、エヌトレクチニブ、ドスタルリマブの3種が認可された。

ディアスは少し早期に治療するだけで効果が格段に上がることに驚いた。そこで17年にMSKCCに移籍すると、直腸癌の専門家であるアンドレア・サーセクと早期癌の患者の臨床試験について話し合った。

蛍光顕微鏡で癌細胞の塊を観察 DAN KITWOOD/GETTY IMAGES

鍵を握る「腫瘍微小環境」

これはある意味で大胆な決断となる。従来は、試験段階の免疫療法を行うのは大腸癌の約3分の1を占める転移性癌の患者に限られていた。残りの3分の2には放射線治療・化学療法・手術という標準療法が行われる。

ただ大腸癌の場合、これらの治療は不妊、性機能の低下、直腸の切除といった深刻な影響をもたらしかねない。そこでディアスらは新たな治療を試す価値があると考えた。

結果は期待をはるかに超えた。患者全員が標準治療を受けずに済み、しかも「うち3人は子供をつくれた」と、ディアスは興奮気味に話す。「今のところ再発もない。科学的見地からは非常に興味深い結果だ。そこから多くの疑問が生じる。まず知りたいのは何が起きているか、だ」

早期の介入が治療効果を高めたのは確かだが、それだけでは説明できないと、ディアスは言う。確信はないものの、早期には遺伝子の変異がさほど蓄積しておらず、癌が周囲の組織に浸潤して免疫反応を回避する「とりで」を築く時間が十分にないせいかもしれないと、彼はみている。

また骨や肝臓、脳などの組織には免疫反応を抑制する「骨髄由来抑制細胞」がある。癌が直腸で初発した場合は、こうした細胞がないため免疫療法がよく効くのかもしれない。

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