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標的の癌細胞だけを免疫システムが狙い撃ち...進化型AIを駆使した「新たな癌治療」とは?

ニューズウィーク日本版 / 2024年5月1日 10時35分

腫瘍学の研究における最も有望な仮説の1つは「腫瘍微小環境」、つまり個々の腫瘍を取り巻くタンパク質などの分子が作るミクロの環境が、免疫療法の有効性を決める大きな要因ではないか、というものだ。ただ、微小環境を考慮に入れると、問題が一気に複雑になる。膨大な数のタンパク質と、それらの相互作用が絡んでくるからだ。微小環境を可視化できる新たな撮像技術も必要になる。

テキサス州ヒューストンのMDアンダーソン癌センターの免疫学者・腫瘍学者であるパドマニー・シャーマは新技術の威力を目の当たりにした。免疫学者アリソンの長年の共同研究者で妻でもあるシャーマは12年、患者の腫瘍から採取した組織標本を使い、腫瘍微小環境を構成するタンパク質を分類し始めた。

腫瘍にはT細胞が入り込んで癌細胞を攻撃できる「熱い」腫瘍と、免疫細胞を寄せ付けない「冷たい」腫瘍があるが、その違いに絡むタンパク質を特定しようと考えたのだ。程なくチームはT細胞の活動を大幅に高めるタンパク質である「誘導性T細胞共刺激因子」を特定した。だが特定するだけでは治療に生かせない。

スタンフォード大学の免疫学者、ゲーリー・ノーランが18年、こうしたタンパク質が腫瘍のどこにあるかを正確に示す撮像技術、言い換えれば腫瘍微小環境のマップを作成できるツールを開発した。

「インデックス化による共検出」の頭文字を取ってCODEXと呼ばれるこの技術により、研究者たちは初めて個々のタンパク質が微小環境のどこにあり、他のタンパク質とどう相互作用をしているかを追跡できるようになった。

ノーランは特定のタンパク質を検出して結合するよう設計された抗体に感光性の「標識」を付けたタグ抗体を作成した。これらのタグ抗体は特定の波長の光に反応して蛍光色に染まる。腫瘍の組織標本にDNAバーコード付きのタグ抗体パネルをかぶせ、組織標本を格子状パターンに分割する。

この格子の四角の一つ一つに、異なる波長の光を次々に照射すると、特定のタンパク質が特定の波長に反応して蛍光染色された画像を取得できる。これらの画像を何枚も重ねることで、組織標本のどこにどんなタンパク質があり、どんな配列になっているかを立体的に可視化した正確なマップを作成できる。

腫瘍内部の現象を全て解析

この技術で既に驚くべき洞察が得られている。私たちの体内では通常、免疫反応が起きる前に、リンパ節でT細胞がB細胞と呼ばれる仲間の免疫細胞と出合い、「異物の存在について情報交換する」と、シャーマは説明する。これはよく観察されている現象だが、普通はリンパ節でのみ起きる。だが免疫療法が有効なケースでは、腫瘍微小環境でもこれと似た現象が起きていることがCODEXで確認されたのだ。

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