大阪城のエレベーターは当時「復元」のあるべき姿とされていた!...名古屋城の「ホンモノ」を問い直す
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月15日 11時5分
一方、最近のメディア論では、レコード以後の録音メディアの展開を考える際に暗黙のうちに前提とされてきた、生演奏という「ホンモノ」に限りなく近づくことが目指されてきたかのような捉え方が見直され、むしろ録音の出現によって、それに対応する、現実には存在しない「オリジナル」がはじめて措定されるようになったとする見方が出てきている。
いずれも、侵すべからざる「ホンモノ」が自分たちの外部に存在しているかのような幻想から距離を置くことで、「オーセンティシティ」の問題を、人々との不断の関わりのなかで形作られる「文化」として捉え返そうとする方向性をもった考え方であると言ってよい。
大阪城や名古屋城もまた、現実世界で常に人々と関わり、そのさまざまな痕跡を刻み込みつつ今日まで引き継がれてきた存在である以上、現実世界から隔絶された形で超然と保たれてきたわけではなかろう。
そういう問題圏の中であらためて、「鉄筋コンクリート造、エレベーターつき」の「オーセンティシティ」を問い直してみることこそ、それを「文化」として考えるということだと思うのだが。
渡辺 裕(Hiroshi Watanabe)
1953年生まれ。東京大学文学部卒業、同大学大学院修了。玉川大学文学部助教授、大阪大学文学部助教授、東京大学大学院人文社会系研究科教授、東京音楽大学教授などを歴任。専門は音楽社会史、聴覚文化論。著書に『聴衆の誕生』(春秋社、サントリー学芸賞)、『日本文化 モダン・ラプソディ』(春秋社、芸術選奨文部科学大臣新人賞)、『歌う国民──唱歌、校歌、うたごえ』(中公新書、芸術選奨文部科学大臣賞)、『まちあるき文化考』(春秋社)など。
『アステイオン』99号
特集:境界を往還する芸術家たち
公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
CCCメディアハウス[刊]
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