見直しが始まった誤・偽情報対策 ほとんどの対策は逆効果だった?
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月8日 19時26分
中露イランが行ったデジタル影響工作に効果があるように錯覚しやすいのは、現在の世界は民主主義にとって逆風であり、対策を講じなければ衰退してゆくからである。民主主義陣営は効果的な対策を講じていないので、長らく民主主義は衰退を続けている。気候変動、資源・エネルギー不足、格差の拡大、移民の増加がその背景にあり、こうした変化に直面した社会は不安定になり、極右など過激なグループが活発になりやすい。
これらは各国が協力して対処すべき問題だが、言い方を変えると外交と政治の問題、つまりは政治家や政党が責任を問われる問題となる。真っ正面から取り組むよりは、中露イランの影響工作のせいにした方が都合がいいうえ、わかりやすい悪役を設定できるので国民の理解も得やすい。
対策も同様で、ファクトチェックやデジタル影響工作のテイクダウンなどのようなわかりやすい対応を中心に行っている。しかし、問題の本質はそこにないので、そんなことをしている間に民主主義はどんどん衰退し、国内はより不安定になり、極右や白人至上主義者といった過激派が台頭する。その結果、アメリカでもヨーロッパでも社会は不安定になる一方だ。
さらに過度に外国からの干渉の脅威を政治家が口にし、メディアが報道しているため、国民の間に情報に対する不信感が広がっている。
こうなることはわかっていた
見直しの動きがでる前から、こうしたリスクについては何度も警告が発信されていた。2016年のアメリカ大統領選について分析したレポートには「パーセプション・ハッキング」が取り上げられている。パーセプション・ハッキングとは、デジタル影響工作の成否にかかわらず、干渉が公になることで不信感や懐疑的な風潮が広がってしまうことを指す。
Metaは四半期ごとに公開している脅威レポートでパーセプション・ハッキングの危険性について繰り返し、警告しており、一部のロシアの作戦が影響工作そののの効果を狙ったものではなく、その後のパーセプション・ハッキングの効果を狙ったものであった可能性も指摘していた。つまり、以前から一部では影響工作の本質的な脅威は、影響工作そのものよりもそれによって社会に不信と不安が広がることであることはわかっていた。
パーセプション・ハッキングは、ロシアの反射統制理論から導かれる手法ともいえるのだが、わかりにくいこともあり、Meta以外が調査研究することは少なかった。
同様に前回の記事で紹介したデータボイド脆弱性も5年間にわたって放置されたままだった。
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