奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月14日 15時30分
新型コロナで妻を亡くしたコは、ほぼ毎日、鍾路3街に通っている。一人息子とはもう10年以上も連絡が途絶えている。政府からの毎月約30万ウォンの基礎年金と、たまにありつける短期アルバイトの賃金がコの収入の全てだ。
「鍾路3街まで出ると、ポケットに400ウォンさえあれば2食とコーヒー2杯を飲むことができ、通り過ぎる人々を見物しながら時間を過ごすことができる」と、コは言う。地下鉄の無料乗車制度は、居場所のない高齢者たちには何よりありがたい福祉に違いない。
鍾路3街の一帯には、このような高齢者向けの常設の無料給食所が3カ所もある。いずれも民間団体が個人からの支援金を基に運営している。
このうち仏教団体が運営する無料給食所は、365日休むことなく、朝と昼の1日2回、500人余りの高齢者に無料で食事を提供している。担当者によると、コロナ禍の後は訪れる人が増えているが、不景気で支援がかなり減っていて運営は苦しい。
「以前ここに来る高齢者は200人程度だったが、コロナ禍が明けてからは増えた。コロナ禍の頃は全国の無料給食所がほとんど閉鎖されたため、地方から3~4時間かけて毎日来る人もいた」と、担当者は言う。「最近は物価が跳ね上がり、ご飯とスープ、おかず3種類でキムチも付かない粗末な食事しか出せないが、ここでしか食事を取れない人も多い。それを考えると、一日も休むわけにはいかない」
貧困に追い込まれた韓国の高齢者は、生計のために世界で最も高齢になるまで働かなければならない。韓国統計庁によれば、22年の時点で65歳以上の働く高齢者の比率は36.2%と世界最多だ。この数字はOECD平均15%の2倍以上高い。
ソウル市中区に位置する「シルバークイック地下鉄宅配」の募集条件はただ1つ、「65歳以上」。地下鉄に無料で乗れる65歳以上の高齢者が、地下鉄を利用して配達する業者だからだ。ここは韓国で最初に開業した地下鉄宅配便で、今年で創業23年。社長のペ・キグン(75)は、経営していた食堂が97年以降のアジア通貨危機で廃業に追い込まれた。家計が苦しかった01年、鍾路3街に集まっている高齢者を見て、この事業を思いつく。
「コロナ禍の前は宅配員が60人ほどいたが、今は30人くらいしか残っていない。平均年齢はたぶん75歳を超えているだろう。一番の年長者は89歳だったかな。それでもみんな1日に12時間以上は働いている」
警備員を72歳で退職し、ペの会社で配達業を始めて5年目になるチェ(77)は、毎朝6時半に事務所に出勤する。「出勤する順に仕事をもらえるので、早く来なければならない。水原市や仁川市のような遠方まで配達に行く日は、家に帰るのが夜10時を過ぎることもある」
この記事に関連するニュース
-
32度の猛暑、それでも街に出ざるを得ない韓国の高齢者たち
KOREA WAVE / 2024年7月18日 11時30分
-
ソウル・古紙収集の高齢者、半数近くが80代…月平均所得10万円
KOREA WAVE / 2024年7月16日 9時0分
-
人口消滅危機の韓国にOECDが苦言=韓国ネット「どうせ消滅は確定」
Record China / 2024年7月15日 7時0分
-
「青年公務員が離職するのは低賃金のため」…韓国で公務員が集会、賃金や手当て引き上げ要求
KOREA WAVE / 2024年7月12日 13時0分
-
もう年金は払えません…2060年「年金崩壊」という最悪のシナリオ
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月5日 17時15分
ランキング
-
1高速鉄道TGVの破壊行為関与か、極左活動家の男を拘束 フランス当局、工具など所持
産経ニュース / 2024年7月29日 20時43分
-
2日台の絆「ますます深く」=地方議員サミットでメッセージ―頼総統
時事通信 / 2024年7月29日 22時13分
-
3ベネズエラで大規模デモ 大統領選抗議、衝突も
共同通信 / 2024年7月30日 8時31分
-
4フランス一部通信設備に破壊行為 ケーブル切断 26日との関連不明
ロイター / 2024年7月29日 20時22分
-
5列車がトラックと衝突し脱線 約140人ケガ ロシア・ボルゴグラード州
日テレNEWS NNN / 2024年7月29日 23時10分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)