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奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

ニューズウィーク日本版 / 2024年5月14日 15時30分

宅配費はソウル市内の近距離なら1万ウォンで、遠方だと距離によっては最高3万ウォンになる。3割を会社に払って残った額がチェの1日の収入となる。連日12時間以上働くチェは、運がよければ1日に4回程度、ついていない日は2回程度の配達をこなし、手取りの収入は2万~3万ウォン程度。時間当たりの報酬は2000ウォン余りだ。24年の韓国の時間当たりの最低賃金が9860ウォンであることを考えれば、あまりにも安い。

「仕方ないよ。金は欲しいけど、働く所がない。まだ体が丈夫だから休んでもいられないし。孫たちに小遣いをあげるためには稼がないと」

実は、地下鉄宅配は年齢のほかにも条件がある。地下鉄の駅の階段を何度も上り下りできる健康な体と、スマートフォンの地図アプリで配達先を探せる最低限のITリテラシーがなければならない。簡単なようだが、これができない高齢者はけっこう多い。

古紙収集の高齢者が4万人超

働きたくてもどこにも採用されず、行き詰まった高齢者が最も簡単にできる仕事は「古紙収集」だ。

キム· ヒョンギュ(82)は小学校を卒業した後、14歳でソウルに出て大工の仕事を学んだ。腕がよく、70年代に韓国企業が中東のインフラ建設事業に乗り出した「中東建設ブーム」当時、大手企業の試験に合格してカタールに派遣された。7年間懸命に働いたが、カタールの現場で事故に遭い、補償金ももらえず追い出される形で退職した。

弱り目にたたり目で、肺癌にかかった妻を3年間介護し、中東でためた金を全て医療費につぎ込んだ。妻は病気に勝てず亡くなり、貯金を全て失ったキムは小さな建設現場を転々として生計を立てていたが、14年に自分も大腸癌にかかり仕事を中断してしまった。

古紙収集を10年以上続けるキム(今年3月) KIM KYUNG-CHUL

現在キムの1カ月の収入は、政府から支給される最低生計費給付と基礎年金、障害者年金を合わせて100万ウォン余り。そこから家賃の約20万ウォンと薬代40万ウォンを引いて、残りの40万ウォンで1カ月生活しなければならない。「食事代を稼ぎたい」と始めた古紙収集はもう10年以上続けている。

キムは朝6時に家を出て、重さ60キロもあるリヤカーを引いて一日中歩き回り、段ボールや古紙を拾う。古紙の価格は1キロ当たり70ウォン、1日で60~100キロ程度の古紙を集めても、キムの稼ぎは4000~7000ウォン程度にすぎない。サラリーマンの昼食代が平均1万ウォンを超える物価高のソウルだから、キムの稼ぎはランチ1回分にもならない。

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