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奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

ニューズウィーク日本版 / 2024年5月14日 15時30分

さらにキム教授は「より深刻なのは、韓国では高齢化が世界で最も速いペースで進んでいることだ」と言う。「現在は全体の約20%である高齢者の人口比率が、50年には40%を超え、60年には55%まで増えると予測される。高齢者の貧困は韓国の社会全体を貧しくする。そうなる前に政府の積極的な介入が必要だ」

具体的に必要なのは、年金制度の不備を補完するために設けられた基礎年金の拡大だ。「現行の65歳以上の所得下位70%に最高30万ウォンまで支給される基礎年金を、100%を対象に最大50万ウォンまで支給しても、韓国の公的年金支出は2040年のGDPの10%に及ばない。2040年のOECD平均は10%ほどと推定されるので、それでやっと平均値に到達する」

尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は現在、国民年金の改革案をまとめる議論を始めている。現行の「保険料率9%、所得代替率40%」(保険料率は現役世代の収入から徴収する年金保険料の比率。所得代替率は、年金受給額を現役世代の収入と比較した比率)をそれぞれ13%と50%に引き上げる第1案と、10年以内に保険料率を12%に引き上げ、所得代替率は今の40%を維持する第2案を作り、専門家や国民の意見を聴取している。

だが両案とも、当面の負担が増えることに対する若年層の反発が激しい。若年層は、むしろ所得代替率を下げる方向での年金改革を主張している。急激な高齢化や少子化、低成長の中で、迫りくる超高齢社会への恐怖にとらわれる若い世代は、国民年金の今後に不安を抱いている。

 

高齢者の福祉予算をめぐっても議論がある。今年2月、総選挙を控えて「改革新党」を結成した李俊錫(イ・ジョンソク)代表は、現行の「65歳以上の地下鉄無料乗車制度を廃止」し、代わりに「月1万ウォンの交通バウチャーを支給する」という公約を掲げた。

これまで一部が主張してきた「高齢者の地下鉄無料乗車の廃止」を公の議論の場に持ち出した形だが、これに約半数の国民が賛成した。民間調査機関が2月に実施した世論調査では、全世代の回答者では賛成47%、反対48%と意見が分かれたが、20代と30代では賛成が50%を超えた。

限られた予算をめぐるシーソーゲームの中で先鋭化する高齢層と青年層の対立は、韓国を「敬老社会」とは正反対の「嫌老社会」へと追い込んでいる。

(筆者はソウル生まれ。東京新聞ソウル支局記者を経て、現在フリージャーナリスト)

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