「放火魔消防士」との声も...解散ギャンブルに踏み切ったマクロンの真意とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月19日 13時39分
保守政権に学生や労働者が抗議した1968年のパリ動乱 ALAIN NOGUESーSYGMA/GETTY IMAGES
極右政党の「正常化」
父ジャンマリ・ルペンから国民戦線を受け継いだ11年以来、マリーヌ・ルペンはひたすら「脱悪魔化」に取り組んできた。
党内にいたネオナチや(第2次大戦中の)ヴィシー政権残党を一掃し、党名も「戦線」から「連合」に改めた。ホロコーストを「歴史の細部」と呼び続ける父親も追い出した。
そうしてイメージは「正常化」されたが、外国人嫌悪やイスラム嫌悪、強権主義、非リベラルの体質は変わらない。しかも、そうした体質は今やフランスの政界で「正常」なものに近づいている。
だが「私か混乱か」というマクロン流の説法は、フランスの病を癒やすどころか悪化させかねない。17年の大統領就任以来、マクロンは一貫してフランスの将来を、善の力(マクロン主義)と悪の力(ルペン主義)の戦いと位置付けてきた。
だが現実には、保守層を味方に引き込もうとするなかで、マクロンはルペン主義のいくつかの要素を取り入れている。
最近では、移民に対する福祉給付の制限とフランス国内で生まれた子に対する国籍の自動付与を否定する移民関連法案を強行採決で成立させた。この2つの条項は、長年ルペンが移民排斥の観点から要求している「フランス第一主義」の容認を意味している。
一方でマクロンは、議会内で騒ぎは起こすものの共和制の原則には反していないLFIのメランションを権威主義的で反共和主義的と非難して、国民連合とひとくくりにすることで左派勢力の多くを遠ざけてしまった。
3つ目に考えられるのは、前回22年の国民議会総選挙でマクロン与党の再生が過半数を割り込んだことの深刻な影響だ。その後の首相(エリザベット・ボルヌと現在のアタル)は年金法案や移民法案などの法案を通すのに苦労してきた。
その結果、マクロン政権は議会の採決なしに法案を成立させる権限を定めた憲法49条3項を繰り返し発動した。この条項は本来、例外的な場合にのみ用いられるべきものだ。
例外を連発し、それを「正常」と言いくるめるようでは国民連合と大した違いはない。
マクロンは議会の機能麻痺に嫌気が差して解散に踏み切ったのかもしれない。だが解散総選挙の決断もまた、本来は例外的であるべきだ。1958年の第5共和制成立以来、フランスで解散は5回しか行われていない。
最も成功したのは、初代大統領のシャルル・ドゴールによる解散だ。
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