イスラエル・ガザ侵攻に次なる展開、ヒズボラとレバノン国境地帯で「全面戦争」が開始か?
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月26日 14時28分
サイモン・メーボン(英ランカスター大学国際政治学教授)
<国際社会におけるイスラエルに対する批判が高まるなかで、さらなる戦争拡大を防ぐべくアメリカは事態の沈静化に努めるが...。果たしてイスラエルは同時に2つの前線で戦えるのか>
イスラエル軍は隣国レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラに対する大規模な攻撃作戦を承認したと伝えられる。その先にあるのは新たな全面戦争か。
昨年10月7日にパレスチナのイスラム組織ハマスが仕掛けた越境攻撃を機にパレスチナ自治区ガザでの全面戦争が始まって以来、レバノンとの国境地帯ではイスラエル軍とヒズボラの小競り合いが続いているが、ここへきて一気に緊迫の度が増してきた。
ヒズボラは6月18日、イスラエル北部の港湾都市ハイファを含む軍事・民間インフラをドローンで撮影した9分間の挑発的な動画を公開した。するとイスラエルのイスラエル・カッツ外相は、「ヒズボラとレバノンに対する従前のルールを変更する時が迫っている」と警告した。
どう変わるのか。中東情勢を専門に研究する筆者が、事態の論点を整理した。
◇ ◇ ◇
──現状はどのくらい危険か
イスラエルとレバノンの国境地帯では何カ月も前から、イスラエル軍とヒズボラ双方による越境攻撃が常態化している。昨年10月7日以来、両者の本格的な衝突を危惧する声はあったが、今までは散発的な交戦にとどまっていた。
しかし、それでも既にレバノン側で400人以上、イスラエル側でも25人が死亡した。避難を強いられた住民は双方で推定15万人とされる。
1982年のヒズボラ結成以来、両者間ではずっと小競り合いが続いてきた。これまでで最も大きかったのは2006年の武力衝突だ(いわゆる「レバノン侵攻」)。
捕虜交換を目的として国境付近でイスラエル兵2人を拉致したヒズボラを、イスラエルは殲滅すると宣言してレバノン領に攻め込んだ。現在進行形の対ハマス戦と同じ構図だ。
もう20年近く前のことなのに、その記憶は冷めていない。当時レバノンは壊滅的な打撃を受けた。復興には100億ドル以上かかり、その資金は主にサウジアラビアやイランなどから提供された。
しかしその後、地政学的な状況は大きく変化した。再び地上戦となっても、復興資金の調達は以前に比べてはるかに難しいだろう。その一方で人命の損失は甚大だ。なにしろレバノンの都市部には人口が密集している。
イスラエル北部ハイファの住民はヒズボラの、レバノン南部の住民はイスラエル軍の攻撃を恐れている。現状は軍事上の標的に限られているが、レバノン南部では市民生活に影響が及んでいる。農地が破壊されて避難民が増え、もともと不安定な社会経済状況が一段と悪化している。
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