イランの核武装への兆候か? イスラエルとの初交戦と大統領墜落死が示すもの
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月27日 12時40分
ライシらを乗せて濃霧の中を飛んでいたヘリの墜落については、イスラエルかアゼルバイジャンの工作を疑う声は公式には上がっていない(ちなみにアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領はネタニヤフと親交を結んでいる)。
「あくまで仮説だが、イスラエルがアゼルバイジャン領内でヘリの電子機器などに破壊工作を行った可能性が取り沙汰されている」と、テヘラン在住の国際法学者であるアフマド・カゼミは本誌に語った。「イスラエルは過去20年間、イラン人核科学者の暗殺などのテロ工作にアゼルバイジャンを利用してきた」
こうした仮説が事実だと分かったら、「地域の諸勢力の均衡は根底から覆され、イスラエルとアゼルバイジャンは痛い目に遭うことになる」と、カゼミは警告する。
イランは過去のイスラエルの破壊工作から警戒すべきポイントを学び、地下に広大なネットワークを築くなど、核とミサイル関連施設の防御を固めてきた。そのためイスラエルが単独でイランの核開発を妨害するのは極めて困難な状況になっている。
「イスラエル単独でイランの国内各地に分散する核施設を破壊するのは難しいと思う」と、オバマ政権下で米国務省の初代特別顧問(核不拡散・軍備管理担当)を務めたロバート・アインホーンは本誌に語った。「だがイスラエルは間違いなくイランが核兵器を保有するのを阻止しようとするはずだ」
現在はブルッキングス研究所上級研究員のアインホーンによれば、イランの政策立案者たちが21世紀の新興核保有国が経験している「リスクとチャンスの両方」に目を向ける可能性は高いという。
抑止力が今後の戦略のカギに
イラクが大量破壊兵器を保有しているという主張は03年の米主導によるイラク侵攻の口実となった。この年、同じく核開発を進めるリビアと北朝鮮は大きく異なる道をたどった。リビアは核施設解体で欧米と合意。一方、北朝鮮はNPTから脱退し核開発を加速させた。
そのわずか8年後、リビアではムアマル・カダフィの長期独裁政権がついに倒され、カダフィはNATOが支援する反政府勢力によって殺害された。一方、北朝鮮の金一族は今もしぶとく権力の座にとどまり、アメリカをも射程に収めることのできる核兵器の開発を加速させている。
イランは既に中東では最多のミサイルとドローンを保有し、「抵抗の枢軸」と連携している。「抵抗の枢軸」とは、アメリカのジョージ・W・ブッシュ元大統領がイラク戦争前にイラン、イラク、北朝鮮を名指しした「悪の枢軸」に対抗してつくられた言葉で、大部分が非国家武装勢力という前例のないネットワークだ。この2つが、信頼し得る抑止力を確立しようというイランの数十年来の取り組みの核となってきた。
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