能登半島地震から半年、メディアが伝えない被災者たちの悲痛な本音と非情な現実
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月1日 10時40分
金沢大学では医療支援や被害状況の調査などに関わる複数のチームが教職員や学生によって結成され、発災直後から被災地などで活動した。そして1月末、それらのチームを結集して同学に能登里山里海未来創造センターが設立され、谷内江は現在そのセンター長を務める。
早期にセンターを設立したのは、学生だけでなく教職員の中にも能登出身者が在籍する大学として、10年、20年のスパンで復興にコミットし続けるという意志と覚悟を示すものでもあった。
前述の復興プランの序章を読むと、能登のアイデンティティーに触れたようで胸を打つ。しかしこの理念は、いま打ち出すにはあまりにバラ色すぎると批判されはしないだろうか。筆者が尋ねると、谷内江は「理念というものはバラ色でいいんです」と言い、しばらく言葉を詰まらせた。
白米千枚田近くの輪島市深見町出身の谷内江は、被災した故郷に通いながら、理念と現実の距離も嫌というほど目にしている。しかし彼は、こうも続ける。
「理念というのは実際に何かをやるという段階では邪魔になりがちなものではあるけれど、胸を熱くすることはやはり大事。理念をどうやって現実のものに着地させるかが非常に重要で、そのプロセスに必要なのは、モチベーションを仕組みの中で維持し続けることだと思う」
分厚い「創造的復興プラン」には、能登の6市町と金沢の計7会場で4月に開催された住民たちによる対話の会「のと未来トーク」での発言が多数収録されている。この会に参加した谷内江は言う。
「お年寄りから若者、高校生や小学校5年生まで、みんな自由に話していた。今まで、一般市民がいわゆる本物の自治に参加する体験というのはおそらくなかったと思うんですよ。それが、やってみるとわくわくする。この仕掛けを自分たちで継続できるかもしれないと思い始めたこと、自分たちでやっていくという自信や心構えが身に付いたことが一番素晴らしい成果だった」
一方で、こうした会に出てきて声を上げられる人がいるのと同時に、「いろんな気持ちがあるけれども語る言葉と機会を持たない人」もいるのだろうと感じ取れたことも、一つの収穫だったという。
実際、筆者が訪れたある仮設住宅では、子育て中の中年女性から「コミュニティーって、何?」と憤る声を聞いた。避難所で生活しているときから高齢者はまるで「お客様のように」振る舞い、高校生を含めた若者たちに働かせ、陰では文句や悪口ばかり言っている。そのくせ、子供たちからは体育館やグラウンドなどの居場所を取り上げたままでは、「そりゃ若い子はいなくなるわな」。
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