H3ロケット3号機打ち上げ成功、「だいち4号」にかかる防災への期待...「攻めの姿勢」で世界に示した技術力の優位性
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月1日 22時10分
「攻めの姿勢」で示した日本の技術力の優位性
とはいえ1号機では搭載の人工衛星を失い、2号機は成功したとはいえ、慎重を期して予定されていた「だいち4号」ではなくダミーを運びました。3号機で初めて実際の人工衛星を宇宙に運ぶことに成功しましたが、もし再度、人工衛星を失うようなことになっていたとしたら、日本の大型宇宙輸送産業は苦しい立場に立たされたでしょう。
その点を踏まえて、先月28日に行われたメディア向けの事前説明会で筆者が驚いたのは、3号機は成功した2号機に手を加えた機体であることでした。
6月30日夜、組み立て棟から400メートル離れた発射台にロケットを移動させる様子 筆者撮影
第1段エンジン「LE-9」は、2号機では1号機に使われたタイプ1と一部を改修したタイプ1Aを1基ずつ搭載していましたが、3号機は2基ともタイプ1Aが使われています。
さらに特筆すべきことは、第1段エンジンの燃焼停止直前の約20秒間で、今回初めて「スロットリング」を飛行実証することでした。
スロットリングでは、意図的にエンジン推力を下げることで、搭載した人工衛星にかかる加速度ダメージを軽減します。有田プロジェクトマネージャによると、3号機では推力を一時的に66%にすることで、一般的なロケットでは搭載衛星に最高で約5.5Gかかるところ、4G程度までに抑えられると言います。
これまでに打ち上げたH3ロケット3機はいずれも第1段エンジンは2基でしたが、今後は3基のものも開発予定です。その場合は、推力がパワーアップするとともに搭載衛星への負荷もより厳しくなるため、スロットリングは必須の技術になります。
6月28日に行われた事前記者会見での有田氏(左)と有川氏(同右) 筆者撮影
とはいえ、1号機の失敗は、第2段エンジンが点火せずに推力を失ったことが原因です。筆者が有田氏に「推力を抑えることに心配はなかったですか」と尋ねたところ、「搭載する『だいち4号』は大切な衛星なので、関係者に『衛星に優しいつくりである』ことを説明し、納得していただいた。もちろん、うまく機能する自信があります」と話していました。
「うまくいっているロケットは、変えてはいけない」と語ったのは、米アポロ計画を主導した科学者ヴェルナー・フォン・ブラウン博士です。しかしH3ロケットの関係者は、開発に敢えて攻めの姿勢を貫き、宇宙輸送で日本の技術力の優位性を見せることに成功したと言えるでしょう。
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