フランス発ユーロ危機はあるか──右翼と左翼の間で沈没する「エリート大統領」マクロン
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月10日 20時45分
リーマンショック(2011年)後に発生したギリシャ債務危機で、共通通貨ユーロの信用が連鎖反応的に低下するリスクを恐れ、EUの中核を握るドイツ政府がギリシャ政府に対して支援と引き換えに厳しい緊縮策を求めた際、メランションはこれを強く批判した。
つまり、メランションには反EUのスタンスが鮮明だ(この点でも極右と大差ない)。
フランスがEUの財政規律から大きく逸脱すれば、共通通貨ユーロの信用にも関わってくる。フランス議会選挙から一夜明けた7月8日、アジア市場などでユーロが下落したのは、こうした投資家の懸念を反映したものといえる。
欧州大学院大学のロレッツォ・コドグノ客員教授は、すぐにユーロが崩壊するシナリオを否定しながらも、EUが “手詰まり” になる可能性を指摘する。
ウクライナ戦争から手を引くか
マクロンとメランションの差異は経済だけでなく多岐に及ぶ。
ロシアによるウクライナ侵攻について、マクロンはウクライナ支援を全面に打ち出し、地上部隊の派遣さえ示唆してきた。
これに対してメランションはロシアの軍事活動を批判しながらも、制裁の強化には反対(これも極右と同じ)し、さらにウクライナ戦争を招いた原因は “アメリカやNATOがロシアにプレッシャーをかけたこと” と批判している。
メランションは以前から “NATO脱退” を主張するなど、アメリカへの拒絶反応が鮮明だった(この点でも極右と同じ)。それはアメリカ中心のグローバル化が格差などを深刻化させたことへの批判による。
フランスには冷戦時代、アメリカ主導のベトナム戦争に反対してNATO軍事部門から撤退した歴史がある。
とはいえ、メランションが首相になってもNATO脱退がすぐ実現するとは想定できないが、少なくともマクロンがこれまでほどアメリカの方針につきあわなくなる公算は高い。
現在の第五共和制憲法では大統領が “最高司令官である” としながらも、首相が “国防に責任を負う” ともあり、曖昧な表記にとどまっている。そのため、大統領と首相の発言力は、その時の政治状況によって変わってくる。
ヨーロッパに向かう移民が増えるか
最後に、移民や異文化の取り扱いでも二人は対照的だ。
マクロンは極右に対抗するため、むしろ極右に近い態度をみせてきた。例えば2021年には、「水泳をしない生徒は国家を分断する」と主張した。
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