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イタリア映画界で異彩を放つ女性監督の新作『墓泥棒と失われた女神』

ニューズウィーク日本版 / 2024年7月18日 18時14分

『夏をゆく人々』でいえば、父親が預かることにする更生プログラムの対象になっているドイツ人の少年マルティンがそれに当てはまる。彼とジェルソミーナは、言葉を介することなく、関係を構築していく。マルティンは、口をきかず、触れられることを拒むが、鳥がさえずるように口笛を吹くことができる。ジェルソミーナも、生きたミツバチを口から出してみせるように、異能がある。

そして、テレビが生み出す魔法が解けたとき、ジェルソミーナとマルティンは、闇に包まれた遺跡のなかで、時間や社会から切り離されたような世界を共有する。

アーサーとエトルリア人の遺跡の間にあるもの

一方、本作におけるアーサーとエトルリア人の遺跡の間にあるものはもっと複雑だ。彼が遺跡を発見する能力を発揮するのは、失った婚約者ベニアミーナを探し求め、死者の世界に引き寄せられるからのようにも見える。あるいは、ベニアミーナが現れる夢や墓荒らしを通して、生者と死者の世界を行き来しているようにも見える。いずれにしても、埋葬品を見つけ出してしまえば、アーサーも仲間とそれを売りさばき、搾取の図式に取り込まれていく。

しかし、そんな彼の前に、『夏をゆく人々』のマルティンのように、イタリアという人物が現れる。彼女は、ロルヴァケルの独自の視点が反映されたような人物だといえる。

ベニアミーナの母親フローラの古びた屋敷に転がり込み、元歌手のフローラから歌のレッスンを受ける代わりに、彼女の身の周りの世話をし、彼女に内緒でふたりの子供をそこに住まわせている。イタリアという名前でありながら、ブラジル出身の女優カロル・ドゥアルテが演じ、子供たちとはポルトガル語で会話をする。

アーサーとイタリアという異邦人が出会い、ユーモラスな手話を編み出すなどして、接近していく。アーサーは、『夏をゆく人々』のジェルソミーナが仮装した女神を見て魔法にかかるように、自分が発見した美しい女神像に魅入られるが、そんなイタリアとの関係を通して像が持つ意味が大きく変わり、呪縛を解かれていくことになる。

『墓泥棒と失われた女神』
7月19日(金)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
©2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinéma




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