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組み立てが大変なイケアの家具は満足度が高く、時短になる簡単ケーキミックスは売れなかった理由

ニューズウィーク日本版 / 2024年7月23日 11時30分

これはかつてないほど簡単で、時間節約にもなる画期的な商品だった。

だがそれゆえに、まったく売れなかったのだった。

どうやら、家庭でケーキを焼く主婦たちは、あまりに簡単につくれてしまうことが気に入らなかったようだ。

ダフ社のケーキミックスでつくるケーキは、十分に美味しかった。問題は、それをつくるための労力や複雑な手順が、まったく必要ないという点だったのだ。

ダフ社の調査の結果、主婦たちには「水を加えるだけのミックス」でつくるケーキと店で買うケーキとの差が、ベーキングシートほどの薄いものにしか感じられないことが明らかになった。

家でケーキを焼く主婦たちにとって、このケーキミックスでつくるケーキは「本物」ではなかった。少なくとも、自分の手でつくったものには思えなかったのだ。

そこにかけられる手間や、発揮できる技があまりに少なすぎて、自分の手づくりだと自信をもって言うことなど到底できなかったということだ。

ではその後、ケーキミックスはどうなったのだろうか?

ダフ社は、コンセプトづくりに戻って再考した。そこで出た答えは直感に反していたが、発想は実に単純だった。要は、「ケーキづくりを難しくする」ということだ。生まれ変わった新しいケーキミックスでは、卵、油、牛乳が別途必要だったのだ。

この新製品は、すぐにヒットした。なぜなら、この新たなケーキミックスを使って焼いたケーキなら、主婦たちは「手づくり」だと堂々と言えるからだった(ほんのわずかな後ろめたさはあったかもしれないが......)。

この一件で、ダフ社(そして消費者行動学の学生たちも)は「人間は自分自身がつくったものや影響をもたらしたものに、より好ましい反応を示す」というきわめて貴重な教訓を手に入れた。労力をかけるということには、愛情を込めるという大事な意味も含まれている。

折り紙の実験で判明した認知バイアス

イケア効果を深く探る一環として、マイケル、ダニエルと私は、ある実験のための被験者を募った。彼らに依頼したのは、折り紙で動物をつくることだ。

この作業に対しては、時給が支払われることになっていた。用意されていた色つきの折り紙と折り方の説明書を手にした被験者たちは早速、作業に入った。

本音をいえば、志願してくれた恐れ知らずの被験者たちがつくった折り紙のカエルや鶴は、何らかの賞を取れるレベルにはほど遠かった。被験者たちはみな折り紙の初心者で、経験のなさが作品によく表れていた。

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