アメリカという永遠の難問...「マグマのような被害者意識」を持つアメリカと、どう関係構築すべきか
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月5日 11時0分
当時は、日米の貿易摩擦問題で両国民の相互感情は極度に悪化していた。しかし五百旗頭は、再度の日米関係の破局を回避するために、日本国民が抱くアメリカへの怒りに理解を示しつつ、「自由貿易のルールに従って競争に勝ったことの反面として、他国が傷ついているという側面に無感覚であり、優位に立った者の持つべき他者への配慮をなしえない」日本国民の態度を批判し、改善を促す。
自由貿易体制に対し、大国アメリカがいかに被害者意識を抱えているかを理解する必要は今日、再び高まっている。
2017年の大統領就任演説で「長らくアメリカは世界に搾取されてきた」とうたいあげ、在任中、日本に対しても貿易赤字の削減を強硬に求めたドナルド・トランプが、共和党の予備選で強さを見せつけ、2024年大統領選の最有力候補の一人となっているのだ。
「世界に搾取されてきたアメリカ」は決してトランプの孤高の叫びではない。昨今のアメリカでは、共和党支持者を中心に「自由貿易はアメリカ経済にとって脅威となる」と回答する人は増え続けている。マグマのような被害者意識を抱えた大国アメリカとどう向き合い、どのような関係を構築するか。五百旗頭の問いはまったく古びていない。
先に紹介した高坂の論考「粗野な正義観と力の時代」は、様々な意味で予言的な論稿だが、極め付けは、「四十年という年の経過はひとつの秩序にほころびを生ぜしめるのに十分の長さ」であるという洞察だ。
あたかも、ロシアがウクライナに軍事侵攻し、中東のガザでイスラム組織ハマスとイスラエルとの間に大規模な戦闘が起きている今の世界を予見していたかのようだ。
しかも高坂は、第二次世界大戦後に打ち立てられた国際秩序への最大の挑戦は、「ユダヤ人問題というヨーロッパが生み出した問題のツケとして、不法にもアラブ世界の中にイスラエルが作られた」と考えるアラブ諸国からやってくるとも述べているのだ。
高坂が、第二次世界大戦後の国際秩序への最大の挑戦が、中国やロシアでもなく、中東において生じうると考えていたことは興味深い。国際秩序を、単なる力の体系ではなく、価値の体系とみなしていた高坂の国際政治観をよく表している。そしてこの国際政治観は、今日の世界を洞察し、その行方を見極める上でますます重要になっている。
「欧米諸国の偽善はガザで完全に葬り去られた」。ガザ危機の中で、そうした怒りの声が非西洋世界で力を得ている。
イスラエルは、パレスチナ人の命と人権を踏みにじって建国され、今日でも国際法に違反した入植政策や占領を続けているが、欧米諸国はその暴力的な事実から目を背けてきた。今回の戦争についても、戦闘開始から100日間でパレスチナ市民の犠牲は2万を優に超えたが、イスラエルの軍事行使を支持する姿勢を崩していない。
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