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アメリカという永遠の難問...「マグマのような被害者意識」を持つアメリカと、どう関係構築すべきか

ニューズウィーク日本版 / 2024年8月5日 11時0分

昨年末には南アフリカが国際司法裁判所(ICJ)に提訴し、イスラエルによる「ジェノサイド」を問う裁判も始まった。1月26日、ICJはイスラエルに対して暫定措置として、ジェノサイド行為を防ぐために「あらゆる手段」を講ずること、ガザ市民への人道支援を供給するために、有効な方策を「即時実施」することなどを命じたが、欧米はこの裁判そのものを批判する姿勢をとっている。

グローバルサウスには、「これまで欧米諸国が語ってきた正義や法の支配、人権とは何だったのか」という懐疑と批判の声が広がっている。南アフリカはかつて、欧米諸国が支えた白人政権によるアパルトヘイト(人種隔離)に苦しんだ経験を持つ。そうした歴史を持つ国によるイスラエル提訴は、国際秩序の道義的な意味での大きな転機になるかもしれない。

この道徳的な混沌を、日本はいかに生き抜くべきか。草創期の『アステイオン』にはヒントが満ちている。

明石康は「故国の友へ」(1号)において、日本が経済的に豊かになるにつれ、「アメリカやほかの先進国とのつきあいに忙し」くして、世界の多数を占める途上国への共感が乏しくなり、「先進国のものさしで、開発途上国を判断」する傾向があることへの懸念を表明している。ガザ危機を通じて、「先進国のものさし」そのものの妥当性が問われる今日、いよいよ大事な警句だ。

山崎正和「ワールド・ダイアローグ」シリーズ、とりわけラルフ・ダーレンドルフとの対談「複雑さに耐える勇気」(3号)も示唆的だ。対談で二人は、「近代社会で、いろんな異種のグループの人たちとともに生きていくというのは、何と困難なことか」と再確認し、その困難を乗り越える道を様々に模索する。

とりわけ山崎が共存への鍵の一つとして指摘する、異論を「お互いに辛抱強く聞き合う」力は、昨今注目を浴びる「ネガティブ・ケイパビリティ」へも連なる先駆的な問題提起だ。

イギリス詩人のジョン・キーツが提唱した「ネガティブ・ケイパビリティ」とは、白黒はっきりとつけられない曖昧な状況に、性急に答えを出そうとせず、耐え抜き、考え抜く力のことだ。

もっともこの能力をひとりで獲得し、発揮するのは難しい。だから論壇がある。多種多様な論客による集合的な「ネガティブ・ケイパビリティ」醸成の場。論壇がそうした面を持つとすれば、そのひとつの理想的なかたちを『アステイオン』は見せてくれている。

三牧聖子(Seiko Mimaki)
東京大学大学院総合文化研究科で博士号取得。専門はアメリカ政治外交、政治思想研究。著書に『戦争違法化運動の時代──「危機の20年」のアメリカ国際関係思想』(名古屋大学出版会)、『Z世代のアメリカ』(NHK出版)、共訳に『リベラリズム──失われた歴史と現在』(ヘレナ・ローゼンブラット著、青土社)。

 『アステイオン』100号
  特集:「言論のアリーナ」としての試み──創刊100号を迎えて
  公益財団法人サントリー文化財団
  アステイオン編集委員会 編
  CCCメディアハウス

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