「核兵器を使えばガザ戦争はすぐ終わる」は正しいか? 大戦末期の日本とガザが違う4つの理由
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月15日 13時30分
六辻彰二
<イスラエルがガザに対して核兵器を用いれば、イスラエル自身に放射能汚染が広がる恐れもある。原爆を投下したアメリカとは、その点で全く異なる状況に置かれている。それ以上に重要なのは...>
•ガザ侵攻が長期化するなか、大戦末期の日本を念頭に「イスラエルが核兵器を使えばすぐ終わる」という主張もある。
•ただし、イスラエルはしばしば「核の威嚇」を行なっているが、放射能汚染が自国にも及びかねないため、簡単には使用できない。
•さらに大戦末期の日本との間には大きな違いが4つあり、たとえガザが核攻撃を受けてもすぐ降伏するとは思えない。
1. パレスチナ全体が一つの考え方でまとまるのが困難
2. イスラエルに降伏した後の安心材料が何もない
3. ガザが核攻撃を受けても反抗拠点がある
4. 軍事的支援者がいる
「核使用でガザ戦争はすぐ終わる」の錯誤
8月9日の長崎平和祈念式典にイスラエル大使招待されなかった。これに関する記事を掲載したところ、いくつかコメントを受け取った。そのなかには「核兵器を使えばガザ戦争は短期間で終わる」と核使用をむしろ正当化するものも目についた。
同様の主張はアメリカでも聞かれる。リンゼイ・グラハム上院議員(共和党)は5月、広島と長崎を引き合いに出して、「早く終わらせるために核兵器の使用は正しい判断」と主張した。
筆者が受け取ったコメントを含め、ガザにおける核兵器の"効能"をあえて強調する意見は、「その方がトータルの犠牲者を減らせて人道的」と主張するにせよ、「それが戦争というものだ」と開き直るにせよ、グラハム議員と同じく多かれ少なかれ大戦末期の日本を想定しているようだ。
しかし、そこには二重の錯誤がある。
大戦末期の日本とガザの違い
まず、イスラエルはしばしば"核の威嚇"をしてきたものの、実際に使用するとなると、大戦末期のアメリカと比べてハードルは非常に高い。
それは人道的な理由だけではない。
福岡市よりやや広い程度の面積しかないガザで核兵器を用いれば、隣接するイスラエル自身にも放射能汚染が広がる恐れがある。また、ハマスに捕まっているイスラエル人の人質や、人道支援を行なう援助関係者も同時に吹き飛ばせるのか。
「自分たちに被害はない」という大前提のもと、原爆を投下したアメリカとは違うのだ。
さらに重要なのは、「大戦末期の日本が原爆投下によって敗戦を受け入れた」というストーリーに沿ってガザへの核使用を正当化できないことだ。
この記事に関連するニュース
-
ブリンケン長官「合意にかつてないほど近づいている」 パレスチナ自治区ガザの停戦交渉めぐり
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年1月15日 10時43分
-
ガザ停戦大詰めの協議続く イスラエル「細部詰める必要」米長官「ハマスの受諾表明待つ」
産経ニュース / 2025年1月15日 8時53分
-
戦後のガザ統治計画発表 米長官、自治権必要と訴え
共同通信 / 2025年1月15日 6時56分
-
バイデン氏、ガザ停戦合意は「間近」
AFPBB News / 2025年1月14日 9時3分
-
ヨルダン川西岸で車両銃撃、イスラエル人3人死亡
ロイター / 2025年1月6日 19時22分
ランキング
-
1韓国大統領、取り調べで沈黙守る 録画も拒否=捜査当局
ロイター / 2025年1月15日 18時0分
-
2氷点下のソウルで大統領拘束、「尹錫悦を守る」叫んだ支援者「ああ」とため息…「終わった」歓声も
読売新聞 / 2025年1月15日 13時27分
-
3韓国の尹大統領、内乱容疑で拘束 戒厳令巡り現職初、警護庁対峙も
共同通信 / 2025年1月15日 11時13分
-
4拘束の韓国大統領が談話「残念ながらこの国の法はすべて崩れた」「流血を防ぐため応じた」
読売新聞 / 2025年1月15日 11時52分
-
5アサド政権崩壊で、もうシリア難民に保護は不要?...強制送還を求める声に各国政府の反応は?
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月15日 14時17分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください