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人を仮死状態にする薬をAIで探したら、認知症治療薬がヒット...なぜ「ドネぺジル」は冬眠の代わりになり得るのか?

ニューズウィーク日本版 / 2024年9月9日 13時40分

ヒトは冬眠や休眠はしませんが、不治の病に侵された人が未来の医療を期待して仮死状態になったり、長期の宇宙旅行に耐えるために「コールドスリープ」したりする設定は、SF作品では馴染み深いものです。

ところが、「バイオスタシス・プログラム」は、戦場、つまり医療機関からの遠隔地を想定しています。なので、低体温療法を使わないでも代謝を可逆的かつ制御可能な状態で減速させ、医療介入が可能になるまで機能能力を安定させて保護する、新しい化学生物学アプローチが求められます。

ハーバード大チームは以前から、低体温療法と同じ効果を薬剤だけで作りたいと考えていました。そのために、動物に冬眠や休眠のような作用を引き起こす薬を探すことにしました。

研究者たちは、冬眠していないアフリカツメガエルのオタマジャクシを使って、薬物を投与したときに冬眠状態になるかどうかを実験しました。

そもそも、冬眠や休眠のメカニズムは複雑で、「中枢神経系が重要な役割を果たしている」こと以外はほとんど解明されていません。近年は、「げっ歯類の視床下部に超音波を照射した後、24時間にわたって休眠のような状態が誘発された」という研究もありますが、ヒトへの応用や臨床試験の実施は未定です。

チームは過去にAIを使って薬を探索し、オピオイドδ受容体作動薬の「SNC80」を使うとアフリカツメガエルのオタマジャクシに冬眠のような状態を誘発することを解明しました。さらに哺乳類の組織を使った実験でも、ブタの心臓やヒトの臓器チップにこの薬を投与すると、酸素消費量が大きく低下し、著しく遅らせることができることが確認できました。

すでに医療現場でも使用、SNC80に「最も近い」ドネペジル

SNC80はマウスなどの実験で、不安や恐怖の記憶を適切に消去する働きを持つことが観察されています。けれど、SNC80はヒトでは痙攣を引き起こす可能性があるため、臨床使用は承認されていません。

そこで今回は、既存のFDA(アメリカ食品医薬品局)承認薬の中から探して、「冬眠薬」として再利用できるかどうかを確かめることにしました。

SNC80のときに使用したオタマジャクシのRNAシーケンスデータと、AIによる薬物探索ツールを用いると、197のFDA承認薬がSNC80のような生理学的減速状態を模倣すると予測されました。さらに、SNC80との構造類似性を探ると、最も近いものとしてドネペジルが特定されました。

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