「21世紀の首都圏はがらんどう」...サントリーホールが生まれた1980年代を振り返る
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月9日 10時40分
片山杜秀 + 三浦雅士 + 田所昌幸(構成:置塩 文) アステイオン
<「文化国家」を目指して、民間の経営者たちがホールを建てた1980~90年代。国立劇場の立て直しを控える現在との差は何なのか──>
『アステイオン』創刊と同じ年に誕生したサントリーホール。1986年とはどのような時代背景だったのか。音楽評論家の片山杜秀・慶應義塾大学教授と舞踊研究者で文芸評論家の三浦雅士氏にアステイオン編集委員長の田所昌幸・国際大学特任教授が聞く。『アステイオン』100号より「1986年から振り返る──サントリーホールと『アステイオン』の時代」を転載。
◇ ◇ ◇
1986年から始まった
田所 『アステイオン』が100号を迎えました。本誌が創刊された1986年は、政治的には、与党の中曽根自民党はあらゆる利害を集約するキャッチオールパーティー(包括政党)になったと言われる一方で、野党第一党は日本社会党でした。
バブル時代の始まりで、虚ろな繁栄とも言えるし、他方で戦後日本で一番元気の良かった時代と言えるのかもしれません。文化面でも、企業によるメセナ活動のさまざまな試みが始まります。朝日放送による大阪のザ・シンフォニーホール開館は82年、日本初のクラシック音楽専用コンサートホールの誕生です。
サントリー文化財団を佐治敬三が創設したのは79年、そして今日お集まりいただいたサントリーホールの開館は『アステイオン』創刊と同じ86年。また、セゾングループのセゾン文化財団設立、セゾン劇場オープンは87年です。
86年当時私は30歳で、まさか自分がその後『アステイオン』の編集に関わるようになるとはもちろん思ってもいませんでした。本日ご登壇の三浦雅士さんは10歳年長で団塊の世代、片山杜秀さんは60年代生まれで私よりは少し下ですね。
『アステイオン』出発の時代をご存じない世代の読者へのメッセージの意味も込めて、時代背景からお話を始めていただけますか。
三浦 86年初めまで2年近くニューヨークにいたので、実は僕には日本の80年代があまりピンときません。しかも、向こうで「人類には舞踊が決定的に重要だったのだ」と確信して帰国したら、なんと東京の真ん中にはオペラハウスがなく、上演する場所がない。
欧州を見れば、パリ、ロンドン、ウィーン、ベルリンなど、都市計画で都市の中心に必ずオペラハウスに類するものがつくられている。翻って日本は、明治から大正にかけては日比谷公会堂があり帝国劇場があったのに、そういうことを考える官僚や政治家がもはやいなくなってしまった。
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