戦火の拡大は「抵抗の枢軸」を狙うハマスの思うつぼ...中東全域が全面戦争の勃発前夜のような不穏な空気に
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月1日 16時26分
アッシャー・カウフマン(ノートルダム大学歴史・平和研究教授)
<イスラエルがレバノンのヒズボラへの攻撃に戦闘の「重心」を移した。国境地帯で小規模のドンパチを繰り返すにとどめてきた消耗戦が新たな段階に>
イスラエルとレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは既にほぼ1年、国境を挟んで互いを挑発し、小競り合いを繰り返してきた。
こうした消耗戦がエスカレートすれば中東全域を揺るがす全面戦争が勃発しかねない──観測筋はそう警告していたが、ここ数日の動きで、この壊滅的なシナリオがにわかに現実味を帯びてきた。
最初に起きたのは9月17〜18日、レバノン各地でヒズボラ戦闘員らの所持するポケットベル型とトランシーバー型通信機器にイスラエルが仕掛けた爆破テロだ。さらにイスラエルはレバノンの首都ベイルート郊外を空爆し、ヒズボラの精鋭部隊を率いるイブラヒム・アキルを殺害した。
ヒズボラは報復としてイスラエル北部の軍事施設などをロケット弾で攻撃し、イスラエルはさらなる空爆でこれに応酬。多数の民間人が死亡し、南部の国境地帯から住民が大挙して北部に逃れたという。
そして27日にはヒズボラ本部への空爆を実施。標的は最高指導者ハッサン・ナスララだったとも言われている。
レバノンとイスラエル研究が専門の筆者は、両国の消耗戦を昨年10月から追ってきた。イスラム組織ハマスがイスラエルへの奇襲攻撃を実施した翌日からだ。
以後、イスラエルはガザに激しい報復攻撃を加え、ヒズボラはハマスとの連帯の証しとしてイスラエル北部にロケット弾を多数撃ち込んできた。
それでも、つい最近まではイスラエルもヒズボラも、ヒズボラの後ろ盾であるイランも寸止めの要領で戦闘の拡大を避けてきた。本格的な戦争になれば、どんな結末になるかは分かり切っているからだ。
イスラエルの軍事力なら、ガザと同様、レバノン全土を焦土に帰すことも可能だ。イスラエルの今回の攻撃でダメージを食らったとはいえ、ヒズボラもまた、イスラエルの戦略的要衝に何千発ものミサイルを撃ち込める。
だからこそ両者は暗黙のレッドラインを設けて、国境地帯で小規模のドンパチを繰り返すにとどめてきたのだ。
「ゲームのルール」を変更
だがイスラエルがヒズボラに仕掛けた攻撃で、この消耗戦は新たな段階に──これまでよりはるかに危険な段階に突入した。今や中東全域が全面戦争の勃発前夜のような不穏な空気に包まれている。
全面戦争になれば、レバノン、イスラエル双方とも壊滅的な損害を受ける。イランとアメリカまで直接対決に引きずり込まれる危険性があり、それにより昨年10月の奇襲攻撃を仕組んだハマスの狙いどおりの展開になりかねない。
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