エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明かす意外な死の真相
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月11日 10時50分
イアン・ランドル(本誌科学担当)
<1935年に発見された苦悶の表情をしている女性のミイラ、最新技術を用いた分析によって長年の謎に答えが見えてきた>
1935年、エジプトの中東部ルクソール(旧テーベ)に近い共同墓地を発掘していた考古学者のチームは、気になるものを見つけた。それは高齢の女性のミイラ。口が開き、恐怖のあまり叫んでいるような表情だった。
【画像】エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明かす意外な死の真相
さらに謎なのは最近、この「叫ぶ女」をCTスキャンしたところ、臓器が残っていると判明したことだ。普通なら防腐処理の際に取り除かれるはずだ。約3500年前のミイラ化の作業に落ち度があり、女性の口が開いてしまったのか。だとしたら、処置した者が埋葬前に口を閉じるのを怠っただけではないのか──今まではそう考えられていた。
だが今回、カイロ大学とエジプト観光・考古省の研究者らの調査から全く別の説が導き出された。女性は実際に苦しみながら死んだというのだ。
「この女性は輸入された高価な防腐剤で処理されたことが分かる」と語るのは、カイロ大学カスル・アル・アイニ病院の放射線科医サハル・サリーム。彼女は8月初め、このミイラに関する新たな論文を筆頭執筆者として発表した。「しかも保存状態がよいことは、内臓を取り除かないとミイラ化がうまくいかないという通説と矛盾する」
脳も肺も肝臓もそのまま
サリームはCTスキャン、走査電子顕微鏡、X線回析などの技術を駆使して、ミイラを「バーチャル解剖」した。するとミイラには防腐処理のための切開痕がなく、脳や肺、肝臓などの臓器がそのまま残されていたことが判明した。
この女性が生きていた新王国時代(前1570~前1070年頃)には、腐敗の速い臓器を埋葬時に取り除き、壺やチェストに入れて別々に保存していた。ただし心臓だけは残された。古代エジプトで心臓は、人格と知性、記憶の源と信じられていたためだ。
女性はこの防腐処理を受けていなかったのに保存状態が良好であるため、サリームは「別のミイラ化の方法」が使われたのかもしれないと言う。「この情報はミイラ化に関する従来の知識を修正し、新たな視点をもたらす」
公式には「CIT8」の記号で知られるこのミイラは、1935年にニューヨークのメトロポリタン美術館がエジプトに遠征した際、ルクソールに近いデル・エル・バハリの共同墓地で発掘された。
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