「真ん中が抜け落ちた国」アメリカの空白を埋めるのは誰か?...大統領選前に「液状化」を再考する
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月23日 10時55分
それについて彼は「人々は、グローバル化や移民などを制御し、社会の変化のペースを遅らせ、国のアイデンティティや歴史を守るために権力を使う政治を求めている」「大企業に有利となる規制緩和や市場の自由化を望まず、自国民を優先させることを重視する世論が示された」と解説した。
この需要に対し「供給」が足りていないといい、「政治と経済、移民を政府が管理し、ポリティカル・コレクトネスにこだわる姿勢を批判し、都市以外のための新しい産業戦略を描く政党」の必要性を強調した。
供給する可能性があるのは「主要部分が変革した保守党」か「主要政党の外に新たに生まれる運動」だが、どちらかはまだ見えないという。
空白地帯に生まれた「トランプ王国」
英国を経由し、再び米国での取材経験を振り返ると、問題意識がどこか重なる指摘を聞いていたことを思い出す。
『What's the Matter with Kansas?』で知られる米ジャーナリスト、トマス・フランク(2019年3月にインタビュー)は、90年代にかけて自己変革を模索した民主党が、労働者の政党ではなく、「見識があり、高等教育を受け、裕福な人々の政党」をめざし、献金もくれる「専門職階級(professional class)」に軸足を移したとの見方を示した。
旧来の支持層である労組メンバーについては、「彼らが(天敵だった)共和党の支持に回ることはない」と安心していた、と。
彼は「これは共和党任せの戦略で、弱点があった。トランプが『自由貿易は失敗だった』と叫び、労働者階級に語りかけた時点で失敗した。うまくいくのは、共和党が従来の自由貿易派、フリーマーケット重視という教義に忠実な限りにおいてだ」と語った。
この意味でも、ラストベルトは空白地帯になっていたのだろう。自動車業界の救済をめぐり「デトロイトを破産させよう」と言い放ったロムニーが共和党候補になった2012年大統領選では、労働者の多くは民主党にとどまり、オバマ再選を支えた。
しかし、民主党はすでに都市の高学歴リベラル層に軸足を移し、特に地方で空白地帯が生まれていた。「そこに共和党が手を伸ばしてくるはずはない」と油断していたら、4年後に規格外のトランプが両手を突っ込んできたというわけだ。
この空白地帯を考える際、1本の論考が補助線を提供してくれる。コロンビア大学のマーク・リラは「液状化社会」(『アステイオン』93号)で、「経済的問題」と「社会的アイデンティティの問題」の両軸が作る4つの象限について、「リベラル―保守」指標ではなく、社会学者ジグムント・バウマンをひいて「液状化―固定化」で分類して見せた。
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