「真ん中が抜け落ちた国」アメリカの空白を埋めるのは誰か?...大統領選前に「液状化」を再考する
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月23日 10時55分
マーク・リラ「液状化社会」『アステイオン』93号85頁より
欧州と米国でも時に解釈が異なり、混乱を招きがちな「リベラル―保守」ではなく、「液状化―固定化」に置き換えただけで、視界がクリアになる感覚を持つのは私だけだろうか。
米英で取材してきた人々の多くは、社会の過度の「液状化」を拒み、先を少しでも見通せる日常を過ごしたい、次世代に引き継ぎたいと願っているだけなのではないか。
リラが指摘するように、多くの労働者が、短期雇用を繰り返す「低賃金で不安定な地位にある新たなプロレタリアート」になる社会で、少なくとも経済面での国家の介入を願い、安定を求める声が強まるのは自然だろう(リラ論考の図が示すA象限)。
ここで私は『The Road to Somewhere』で知られる英ジャーナリスト、デイビッド・グッドハートの言葉を思い出す(2017年10月にインタビュー)。
彼は、この数十年のグローバル化で「Anywheres」(エニウェア族:高学歴で、資格やアイデンティティなどを持ち運び、どこでも快適に暮らせる人々)が「Somewheres」(サムウェア族:どこかの土地に根ざして生きる人々)に対して「文化、政治、経済など、全ての面で優勢になりすぎた」との認識を語った。
ブレグジットの最大の理由は「学位のない人々の雇用や地位が急速に悪化したことだ」と述べた上で、こう問題提起した。
「ブレグジットやトランプを支持した人々の大半は過激ではない。求めているのは、安定した社会、抑制的な移民政策、教育や雇用の機会、大学を卒業していない人々の物語(尊厳)で、かつては常識に見えたであろうことだ。30年前なら、どれも自然な要求だったが、今は異様とか過激に見えている。いま『ポピュリズム』と呼ばれているものは、『中道』ではないだろうか」
『アステイオン』への期待
英国滞在中は、1940年代のリベラルコンセンサス、1980年代の新自由主義という2つのトレンドを世界に示した国が、次に何を示すのか(示せるのかも含めて)に目をこらした。
答えは今も見えていないが、2016年以降、潮流が変わったという感覚は強まった。米民主党政権の「ミドルクラスのための外交」や「新ワシントン・コンセンサス」にトランプの残像が見えることも大きい。
普段は漠然としか考えないことを、少し背伸びして考える機会。それが『アステイオン』だ。私のようなサボり癖のある記者は、日々のニュースには集中しても、それらが総体として意味するものを考えることが苦手だ。そんな時に「普段使っていない筋肉を使いませんか」と刺激してくれる。
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