安倍晋三に負け戦を挑んだ石破茂の復活劇
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月17日 14時35分
トバイアス・ハリス(ジャパン・フォーサイト創業者・代表、日本政治研究者)
<田中角栄を師と慕い、より民主的な政治を目指す石破茂が自民党総裁戦に勝利し、自民党の中核にある路線対立を浮き彫りにした。安倍が国内外で容赦なく権力を追求した代償を石破、あるいは自民党はどう清算するのか>
2018年の自民党総裁選挙で安倍晋三首相(当時)に負け戦を挑む決意をしたことほど、石破茂の人柄を明確に物語るエピソードはない。
当時、安倍は第2次政権の6年目に入っていた。森友学園と加計学園をめぐるスキャンダルが支持率に響いてはいたものの、国内では圧倒的な影響力を持ち、国際社会でも政治家としてますます存在感を高めていた。
自民党は2017年に党則を変更して総裁の任期を「連続2期6年」から「連続3期9年」に延長し、安倍が歴代最長の首相在任期間を達成することを可能にしていた。自民党が安倍の3選を拒む可能性は皆無といってよかった。
それでも石破は総裁選に出馬した。2012年9月の総裁選で敗北を喫してからも安倍を忠実に支えてきたが、不満は募るばかりだった。
石破に言わせればアベノミクスは大企業と大都市を優遇し、格差を広げていた。また安倍の安全保障改革は、国防をめぐる深い議論を避けているように思えた。
政策以前に、石破は正当な理由で利益誘導や権力の乱用を批判をされても頓着しない安倍の強引なリーダーシップに失望していた。そこで「正直、公正」をスローガンに掲げ、総裁選に立候補した。安倍の支持者たちはこのスローガンを、首相に対する個人攻撃と捉えて非難した。
石破は意外な健闘を見せたが、結果は予想どおり安倍の圧勝だった。
対立の代償は大きかった。10月に首相に就任するまでの8年間、石破は一度も入閣せず、党の要職にも就かなかった。安倍の熱烈な支持者には裏切り者と非難された。安倍の辞任に伴う2020年の総裁選で最下位に沈んだのも、これが一因だったに違いない。
所属政党と足並みがそろわなくとも、石破は自身が安倍政権の重大な過失と信じる問題に関して考えを曲げようとしなかった。
そのため党内に味方が少なく、今なお大きな力を持つ右派に嫌われているともっぱら噂されてきた。そんな石破が今年9月27日、安倍の最も忠実な側近だった高市早苗を21票差で破って自民党総裁、つまりは次期首相に選出されたのだ。これは驚きだった。
石破と安倍および安倍支持者の違いは、政策だけにとどまらない。むしろ彼らの違いは党内の根本的な理念の分裂を反映している。
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