安倍晋三に負け戦を挑んだ石破茂の復活劇
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月17日 14時35分
日本は軍事的脅威から自国を守る能力を保有し、アメリカの無謀さや無責任が日本を危険にさらす可能性を考えてアメリカへの依存を減らすべきだと、石破は考える。もちろん、日米同盟に反対してはいないが、核抑止力の管理を含め、日本が独立したパートナーとして本格的に関与することを望んでいる。
一方で、日本が優位に立つためだけに権力を争うことや、東アジアの軍事バランスばかり考えることを、石破はよしとしない。軍事力の追求と並行して、中国や韓国など地域の大国と外交および通商関係を築くことの重要性を強調しており、戦時中の過去について日本がより謙虚になることを求めている。
こうした理念の違いは9月の総裁選でもあらわになった。石破は「国民の安全と安全保障」を強調する政策を掲げ、高市は「総合的な国力の強化」をスローガンに挙げた。
この2つの政策の間には、戦後の日本政治の最も根強い亀裂がいくつか存在する。そうした亀裂は21世紀の日本において、相対的な衰退を容認して順応しようとする政府か、あるいはそれを覆すために途方もない手段とリスクを取る政府かという違いになる。
だからこそ石破の前途は楽観できない。安倍の思想とその後継者たちは、安倍が12年から22年に死去するまで支配した党内で、今も非常に大きな力を持つ。石破の勝利は、旧安倍派の最終的な敗北を意味するものでは決してない。高市は既に次の総裁選に向けて準備しているだろう。
もっとも、今回の結果は石破の「反安倍」ビジョンと高市の「親安倍」ビジョンの勝負というより、有権者の根強い石破人気が自分の議席を守ってくれるだろうと考えた選挙に弱い議員たちの日和見的な賭けであり、石破は高市より自分のレガシーを守るだろうという岸田文雄前首相の賭けだったのかもしれない。
つまり、石破は党内で依然として孤立している。総裁就任から1週間でアベノミクスへの批判を緩めた主な理由の1つは、岸田が安倍の経済政策を継承し推進してきたからだ。さらに、旧安倍派の政治資金疑惑に関与した議員に一旦は寛容な姿勢を示した。これは1918年に石破が声高に拒絶した、権力を死守する政治スタイルにほかならない。
理想主義を手放す代償
とはいえ、こうした妥協は避けられなかったのかもしれない。高市とその支持者は党内野党の勢力を形成しており、石破が安倍路線からあまりに逸脱すれば、反乱を起こす可能性は十分にある。
ただし、石破のこのような対応は、理想主義的な真実の語り手としての自らの評判を損ないかねない。より民主的な政治を実現しようというその決意は、石破が政治を続ける理由そのものであるはずだ。そうした変化は政権発足直後に首相としての力を弱めるだけでなく、10月27日投開票の総選挙で自民党が単独過半数を維持する可能性をも脅かすだろう。
安倍の政治的ビジョンに今も多くの党員が固執している状況で、石破のような経歴の政治家が「安倍後」の自民党を構築しようとすることは荷が重すぎるのかもしれない。
だが、石破が新しい自民党の構築に失敗したとしても、総裁選の勝利は日本の与党の中核にある路線対立を浮き彫りにした。安倍が国内外で容赦なく権力を追求した代償を自民党が清算するかどうか。この争いが、今後何年にもわたり日本の政治を形作ることになる。
From Foreign Policy Magazine
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