安倍晋三に負け戦を挑んだ石破茂の復活劇
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月17日 14時35分
たとえ国民の賛同が得られなくとも戦後に課された制約を取り払い、日本を軍事面でも他の主要国と肩を並べる完全な大国にすることを目指す──これが自民党の伝統だ。再軍備化を提唱した岸信介を祖父に持つ安倍は、文字どおり伝統の継承者だった。
冷戦後、異論は退けるかあるいは吸収する形で、安倍ら党指導者はこの伝統を自民党の主流としていった。
庶民宰相の教えを胸に
片や石破は、これに対抗する系譜に属している。
1980年代に若い石破を政治の世界に引き入れたのは、田中角栄元首相だった。70年代後半にロッキード事件の収賄容疑などで逮捕されてからも、田中は法廷に立ちながら田中派を最大派閥に拡大し、自民党の「闇将軍」として悪名をはせた。
汚職のイメージの強い田中だが、その政治は理念に支えられていた。
田中は新潟県の貧しい家庭に生まれたたたき上げで、どんなに辺ぴな地域も高度経済成長から取り残されてはいけないと固く信じていた。「日本列島改造論」を提唱し、自民党は道路や橋や新幹線を建設して雇用を創出し、自分の故郷のような寒村の開発を進めるべきだと訴えた。
また「庶民宰相」の異名を取るだけあって、田中は筋金入りの民主主義者だった。石破ら若い政治家には、最も優先すべきは有権者の声に耳を傾け、国の力を使って彼らの生活を良くすることだと説いて聞かせた。
1970〜1980年代にかけて田中派は自民党を支配したが、田中の裁判と健康悪化を受けて分裂していった。求心力を失うなかで、石破を含む弟子の一部は政治改革を目指して離党し、自民党は1993年に初めて野党に転落した。
1997年に石破は復党したが、その頃までに自民党の性格はがらりと変わり、安倍の台頭を後押しする右傾化が既に始まっていた。
しかし、自民党が変わっても、石破は田中から学んだ教訓を貫いた──自民党は有権者の声を聞かなければならない。日本の中で最も恵まれない人々や地域の生活を改善しなければならない。自民党が大きな変化を望むなら、例えば憲法改正や国防費の増額を目指すなら、有権者を説得して支持を得るために懸命に努力して誠実に語らなければならない、と。
軍事オタクの安全保障論
石破が自民党の政治家の中で常に人気が高いことは偶然ではない。そして、彼が現代の自民党で際立っている点は、田中を慕い続ける思いだけでなく、日本が世界で果たすべき役割についても独特の見解を持っていることだ。
満州で従軍した経験のある田中は再軍備に懐疑的で、冷戦時代はアメリカからの自立を強く主張した。一方、石破は平和主義者ではない。それどころか「軍事オタク」を自称している。ただし、安倍とその支持者が日本を世界の大国にする一環として軍事力を強化しようとしているのに対し、石破の一番の関心は国と国民を守ることだ。
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