「スマホ投稿」が暴露した秘密...台湾防衛が中国に筒抜けとなる理由
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月7日 13時30分
海鋒大隊所属の機動部隊は通常、3〜4台のミサイル発射台と護衛のための数台の支援車両で構成される。台湾島内を自在に動き回り、発射地点で素早く準備し、中国軍の艦隊にミサイルを撃ち込み、反撃されないうちにさっさとその場を去る。「シュート・アンド・スクート(撃って逃げる)」と呼ばれる戦術だ。
政府と軍の「自殺行為」
だが問題の記事を投稿した企業は5月23日、台湾の機動部隊の数カ所の発射地点を正確に突き止めていた。台湾北西部の海辺のリゾート・宜蘭のホテルの駐車場や台湾第2の都市・台中の港湾近くの水族館の駐車場、さらには台湾最南端の恒春半島に位置する墾丁国家公園内の駐車場に設けられた発射地点などだ。
この中国企業は台湾軍にスパイを潜入させていたわけでも、最先端のハッキング技術を使ったわけでもない。台湾の人々(ジャーナリストもいるが、多くは一般市民)が移動中の機動部隊を見つけ、スマホなどで撮影し、ソーシャルメディアに投稿したのだ。
台湾の日刊紙・聯合報の記者、ジョンソン・リウは「軍の車列を見かけた」という地元の人の話を聞いて発射地点を突き止めたという。「国防部(国防省)は何も教えない。だが過去の演習時にミサイル部隊が駐車場を使うのを見たので、どこから撃つかすぐに見当が付いた」
台湾のメディアやネット民は正確な場所までは示していないが、中国側が入手した画像を基にグーグル・マップなどを使って調べれば、簡単に発射地点が分かる。この中国企業は機動部隊の移動ルートや移動にかかった時間まで割り出していた。
ここ数年、スマホとソーシャルメディアの普及に伴い、一般の人たちが目撃した場面を撮影してネットに投稿するようになった。この手のOSINT(オープンソース・インテリジェンス)が軍事的にも利用されることはウクライナ戦争を見れば明らかだ。ところが、台湾軍の上層部は自軍の機動部隊を中国のミサイルから守るために必要な情報セキュリティーをいまだ採用していない。
中国の福建省や江西省から発射された大陸間弾道ミサイル(ICBM)・東風は、台湾のあらゆる場所に最短5~7分で到達する。台湾は複数の早期警戒レーダーシステムを導入しており、少なくとも防空レーダー自体が破壊される前に、ミサイルの落下点をある程度、予測できる。ただし、戦況の不透明さや軍内部のコミュニケーションの不備を考えると、警告が現場の部隊に間に合う可能性は低い。
微信に投稿した中国企業は、政府の所有ではないとみられる。同社のサイトには世界中の軍事および安全保障に関する研究論文が数多く掲載されているが、台湾に関連するものは数えるほどだ。
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