「予測不能な男の再登板」ウクライナ・ガザ・中台・朝鮮半島・・・世界の安全保障の気になる行方は?
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月13日 14時16分
シュテファン・ウォルフ(英バーミンガム大学国際安全保障教授)
<トランプがホワイトハウスに復帰し、米上院で共和党が多数派を奪還──。この結果は、アメリカの同盟国が懸念し、敵対国の一部が待ち望んでいたものだった>
ドナルド・トランプ前米大統領がホワイトハウスに復帰し、米上院で共和党が多数派を奪還──。米大統領選並びに同時実施の米議会選の結果は、アメリカの同盟国が懸念し、敵対国の一部が待ち望んでいたものだった。今や、前者は平静を装い、後者は喜びを隠せないでいる。
まず、ウクライナでの戦争はどうなるのか。トランプは来年1月の大統領就任後、ロシアとウクライナに停戦を求めるだろう。そうした動きの一環として、ロシアが2014年に併合したクリミアや22年2月のウクライナ侵攻以降の占領地が、ロシア領と確定されるかもしれない。
同時に、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の要求どおり、トランプはウクライナの将来的なNATO加盟を阻止する可能性がある。トランプの「NATO嫌い」を考えれば、ウクライナ寄りの欧州各国にとって重大な圧力になりそうだ。トランプは、アメリカのNATO離脱という脅しを再度ちらつかせて、欧州にプーチンとの取引を迫りかねない。
中東では、トランプはイスラエルやサウジアラビアを断固支持してきた。今後は、その姿勢を強化するだろう。以前にも増して強硬な対イラン政策を掲げると考えられるが、これはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相にとって好都合だ。
ネタニヤフは、イランの支援を受けるパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマス、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ、イエメンの反政府勢力フーシ派を崩壊させ、イランを大幅な能力低下に追い込むつもりでいるようだ。
米大統領選と同日の11月5日、ガザでの軍事行動をめぐって対立してきたヨアブ・ガラント国防相の解任を発表し、戦闘継続に向けた体制を整えている。
イスラエルの攻撃が続くガザ北部を脱出する市民 MAHMOUD ISSAーREUTERS
アジアの同盟国を待つ運命
イスラエルはレバノンへの攻撃拡大も準備している。イランに対しても同様で、イスラエルにさらに攻撃を仕掛けてきた場合、壊滅的になりかねない報復攻撃を行う用意がある。
トランプの再選で、ネタニヤフは勢いづくだろう。その結果、トランプはプーチンに対して、より強い立場を手にすることになりそうだ。ウクライナでの戦争では、ロシアはイランの支援を頼りにしている。停戦を目指すトランプにとって、「ネタニヤフの抑止」はプーチンとの交渉の切り札になるだろう。
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