世界の若者を苦しめる「完璧主義後遺症」...オードリー・タンは「ジグソーパズル」にたどり着いた
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月14日 17時10分
1981年生まれのオードリーが育った時代は、まさに能力主義とエリート教育への信仰が広がり始めた時代と一致する。
『これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学』(早川書房)が全世界で注目を集め、当代一の有名哲学者となった、ハーバード大学政治哲学教授のマイケル・サンデルは、2020年のパンデミック期に書いた『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)のなかで、エリート教育が現代社会にもたらす害悪を指摘している。
1980年代にハーバード大学で教え始めたとき、「ハーバード大学に合格できたのは自分が努力した結果であり、運は関係ない」と考える学生が増えていることに気づいたという。
こうした現象はアメリカだけで起きていたわけではなかった。その後、世界各地で講演した際にも、「成功は自分のおかげ」という意識が広がっていることを実感した。多くの人が「努力さえすれば成功できる、失敗の原因はすべて当人の努力不足にある」と考えていたのだ。能力主義によって競争心が強まった学生たちは、「成績ばかりを心配し、知的好奇心を失いそうになっていた」
学歴戦争の戦場で勝敗を競う者たちには、自分は何者かと思考したり、興味の対象への探求を深めたりしている暇はないのだ。
「完全主義」による後遺症
エリート教育には別の弊害もあるとサンデルは指摘する。それは、つねに試験によって選別され、厳しい闘いを強いられてきた学生たちの間に「完璧主義後遺症」が生じることだ。好成績を収めて自分の価値を高めようと努めるあまり、心を病んでしまう。この数十年、世界中で青少年のうつ病が増加の一途を辿っている原因がここにある。
オードリーが小学校でいじめを受けていたときに感じた現実も、まったく同じものだった。誰もが順位を競うばかりで、人生に対する好奇心を失っている。
「教育システムから離脱したばかりのころは、まだ競争心が残っていました」
退学してから大人になるまでの期間について、オードリーはこう振り返る。
当時は「マジック:ザ・ギャザリング」というカードゲームに熱中していた。このゲームで、台湾ランキング1位になったことで、台湾代表として日本での世界大会にも出場し、ベスト8に入っている。その後、こうして競い合うことにも嫌気がさし、ゲームはやめてしまった。
「大人になってから、何をするにも人と比べることはなくなりました。IQ160という数字も、人と比べるためのものではないのです」
この記事に関連するニュース
-
オードリー・タンは生活にも「/」を入れる...「スラッシュワーカー」になる方法、超える方法
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月15日 11時35分
-
オードリー・タンが語る「独学と孤独」 答案を白紙で提出し、14歳で学校を辞めた天才の思考
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月8日 16時50分
-
発売前重版決定!オードリー・タン、約2年ぶりの最新刊。世界屈指の頭脳が実践している人生の質を高める方法がこの一冊に
@Press / 2024年11月7日 10時0分
-
のび太のように「運動神経のない子」を徹底的に見えない化! 運動会の「教育的配慮」はアリかナシか?
オールアバウト / 2024年11月1日 21時45分
-
オードリー・タン氏実践「睡眠記憶法」の超合理性 睡眠の効能を最大限活用する徹底した工夫
東洋経済オンライン / 2024年10月30日 14時0分
ランキング
-
1【独自】住民税非課税世帯に3万円検討 子1人2万円上乗せも、物価高で
共同通信 / 2024年11月13日 21時42分
-
2“電動キックボード問題”が一歩前進? ソニーのブースは大人気
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年11月15日 7時15分
-
3半導体バブルに異変「AIかそれ以外」明暗くっきり "異次元の生産"に沸くアドバン、赤字のローム
東洋経済オンライン / 2024年11月15日 7時30分
-
4実は絶品「富士そばのカレーかつ丼」誕生の背景 ある意味珍メニュー?はこんなふうに生まれた
東洋経済オンライン / 2024年11月15日 8時50分
-
5あのヨーグレットが気づけば「グミ化」一体なぜ 多くの大人が「懐かしい!」長年の課題を攻略へ
東洋経済オンライン / 2024年11月15日 8時40分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください