トランプは簡単には関税を引き上げられない...世界恐慌を悪化させた「禁じ手」を含む「4つの秘策」とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月26日 17時56分
キース・ジョンソン(フォーリン・ポリシー誌記者)
<「関税男(タリフマン)」を自称し、関税引き上げを叫ぶトランプ次期米大統領。本当に実行すれば「半年で経済危機」に陥るかもしれない──>
ドナルド・トランプ次期米大統領は自称「タリフマン(関税男)」。全ての中国産品に60%の高率関税をかけるぞ、中国以外の全ての国の全ての産品にも最大20%の関税をかけてやる。選挙戦ではそんな放言を繰り返していた。
むちゃな話に聞こえるが、無理でも無謀でもない。忘却のかなたにある「1930年関税法(通称スムート・ホーリー法)」を引っ張り出せば十分に可能だ。ただし、あれが大恐慌を悪化させ、第2次大戦の序曲となった事実もお忘れなく。
トランプの経済顧問たちは、彼の関税プランを褒めちぎっている。輸入に依存しがちなアメリカ経済のバランスを取り戻すには有効な手段と考えるからだ。
ただし世間一般のエコノミストは、国内の消費者や企業に重い負担がかかりインフレを再燃させかねないと危惧する。あらゆる物価が上がるから、結果として経済成長の足を引っ張る可能性も指摘されている。
諸外国も戸惑っている。例外なく関税を課すと息巻いているのは貿易交渉を有利に運ぶためのトランプ節にすぎないのか、実際には標的が絞られるのか、あるいは税率がもっと低くなるのか、全く分からない。中国やEUは、もちろん報復関税を準備している。
そもそもなぜ関税なのか
一律の高率関税案には、エコノミストを納得させるデータも諸外国の政府を納得させる理屈もない。トランプ・ワールドの住人でさえ、今なぜ関税なのかは、たぶん理解できていない。トランプ自身は、関税で政府の収入が増えれば連邦所得税をゼロにできると示唆したこともある。
第1次トランプ政権では2017年に大幅減税を行ったが、所得税に関する部分は時限立法で、25年末に終了する。第2次政権は減税を延長する意向だが、それで生じる歳入減を補う財源として期待されるのが高率関税というわけだ。
直接税(所得税など)を減らす代わりに間接税(消費税や関税など)を上げるのは常套手段だが、第1次トランプ政権で大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジョン・ボルトンは高率関税が貿易戦争の引き金になることを懸念し、「真っ先に心配なのは関税だ。政権発足から半年で経済危機が起こるかもしれない」と語っている。
だが第1次トランプ政権で米通商代表部(USTR)の代表だったロバート・ライトハイザーらは、割高になった外国製品が敬遠されれば米国内の製造業が復活するという理屈で高率関税を高く評価している。現実には、国内製造業に関税効果が表れるには時間がかかり、ひどく効率が悪いのだが。
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