大量の子ガメが車に轢かれ、人間も不眠症や鬱病に...知られざる「光害(ひかりがい)」の影響とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月19日 14時2分
岩井光子(ライター)
<街灯やオフィスが放つ光は人体や生態系に悪影響? きらびやかな夜景に隠れた負の一面とは>
きらびやかで幻想的な夜景を「100万ドルの夜景」と呼ぶことがある。しかし、行きすぎた夜間照明は天体観測や人々の生活リズム、あらゆる生態系に想像以上のダメージを与えている実態が明らかになってきた。
今や人類の3分の1は天の川が見られない環境に住んでいるという。見えなくなったのは、過度な人工照明による影響で、専門用語では「光害(ひかりがい)」と呼ぶ。
環境省の光害対策ガイドラインには「『良好な光環境』の形成が、人工光の不適切あるいは配慮に欠けた使用や運用、漏れ光によって阻害されている状況、またはそれらによる悪影響」と記されている。
国内では数少ない光害研究者の一人である、東洋大学の越智信彰准教授(環境教育)は「光害は騒音や悪臭と同じく都市化に伴う公害の1つだが、一般の人には『明るい=良い、暗い=あまり良くない』というイメージが定着しているために認識がなかなか広まらず、放置されていることが多い」と指摘する。
光害の影響は、天文領域にとどまらない。例えば夜間に強い光を浴びることが、不眠症や鬱病といったメンタルの不調につながることがあるという。夜は暗所で眠るという、人類が長い進化の中で築いてきた体内リズムが乱されてしまうからだ。
色温度と光の拡散を抑えた街灯の設置作業 COURTESY OF KOZUSHIMA TOURISM ASSOCIATION
人間だけでなく、海のプランクトンから昆虫、動植物、農作物に至るまで生態系にも幅広い影響が指摘されている。
特に深刻な被害が報告されているのがウミガメと渡り鳥だ。砂浜で孵化したウミガメは光を感じる方向に動いて海にたどり着く本能があるが、光の強い人工灯があると方向を見失い、大量の子ガメが車にひかれる悲劇が各地で起きている。
星の光を頼りに移動する渡り鳥も、高層ビルの明かりに惑わされて延々と周囲を飛び続ける。アメリカでは、窓に衝突して絶命する渡り鳥が年間10億羽を超える。
白光LEDのデメリット
こうした現状を打開しようと、東京都の離島である神津島村は2020年、美しい星空を守る光害防止条例を施行し、都では初めて「星空保護区」の認定を受けた。
神津島の星空
島は美しい天の川を鑑賞できる場所として人気が高まり、神津島観光協会は島民向けの星空ガイド養成にも力を入れる。鑑賞会は島の新しい観光資源として好調だ。
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